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1999年(平成11年)

平成11年長審第44号
    件名
漁船福栄丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成11年12月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
    指定海難関係人

    損害
沈没、重油約1キロリットルが流失、機関などにぬれ損、のち全損処分

    原因
船首倉庫内浸水箇所の点検不十分

    主文
本件沈没は、船首倉庫内浸水箇所の点検が不十分であったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月24日10時
長崎県崎戸港
2 船舶の要目
船種船名 漁船福栄丸
総トン数 19.53トン
登録長 14.85メートル
幅 4.47メートル
深さ 1.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 140
3 事実の経過
福栄丸は、昭和53年9月に中型旋網船団の網船として進水した一層甲板中央操舵室型FRP製漁船で、甲板下には、船首から操舵室のほぼ直下までの3箇所に水密隔壁をおおよそ等間隔に設け、船首から順に、船首倉庫、漁具庫及びソナーや魚群探知機などを設置した機器室とし、同室の後方が機関室となっており、船首倉庫と機器室は、甲板から船底まで単一の区画であったが、漁具庫は、船底から高さ約50センチメートル(以下「センチ」という。)のところにFRP製の床を設け、同床と船底との間が水密の空所となっていた。

船舶所有者Bは、長い間栄丸に船長として乗船していたが、老朽化した同船を売船して代替船を導入することとし、平成3年9月他の所有船を建造した経緯がある旧知のA指定海難関係人経営のR造船所で、同人の仲介により中古船を購入して福栄丸の代替船に当て、同人に対して福栄丸売船の仲介と、売船先が決まるまでの間、同船の係船管理を行ってくれるよう口頭で依頼した。その際、Bは、福栄丸の魚群探知機などの使用可能機器を陸揚げするため、電線取外しなどの作業をしやすいよう、船首倉庫と漁具庫床下の空所との間の隔壁に直径約30センチの穴を開け、機関室と機器室間の油圧パイプなどを撤去したために、その間の隔壁に直径約10センチの穴が3個ばかり開いていたが、これら穴(以下「工事用開口」という。)を塞がず、また、漁具庫の床中央部に貫通していた直径約7センチの電線管取外し部とその周囲をFRPで塗り固めて水密としたものの、漁具庫床上と機器室との間にあった直径約10センチの水抜き用開口を密閉しない状態で、同船をA指定海難関係人に引き渡した。
福栄丸の係船管理を無償で引き受けたA指定海難関係人は、長崎県崎戸港内の最奥部鍬田ノ浦にある造船所の傍らに同船を係留していたところ、平成5年同造船所付近の海面埋立て工事が行われることになり、同船が工事の邪魔になることから、船首0.80メートル船尾1.80メートルの喫水をもった同船を作業船でえい航し、同港内崎戸大橋南たもと付近の入江に向かい、崎戸港フツノ浦導灯(後灯)から016度(真方位、以下同じ。)970メートルの地点において、船尾端から重量約130キログラムの錨を投じ、錨索として直径20ミリメートルの合成繊維製ロープ1本を沖側に約30メートル延出し、船首端から同径、同質の2本のロープをV字型に約30メートル延出して急傾斜した岸辺に自生する樹木にそれぞれ固縛し、ほぼ南方に向首した状態で係留作業を終えて同船を去った。
その後、A指定海難関係人は、陸路では係留地に接近できないため、毎日のように通行する崎戸大橋上から船体の状態を適宜監視し、外観上異変があれば作業船などで係留地に赴き、船体の点検を行うこととして係船管理に当たっていた。
こうして、福栄丸は、長い年月にわたり同じ状態で係留され、前後左右の移動はあまりなかったものの、風浪などの影響を受けて上下に動揺し、係留地の潮高差が最大3メートルばかりあることから、低潮時に岸辺に近い船首部の船底が、海底の突出した岩に接触することを繰り返すうち、いつしか船首倉庫の船底部に亀(き)裂が生じ、海水が同倉庫に浸入するようになった。
越えて平成9年10月18日A指定海難関係人は、福栄丸の機関購入希望者があったので、機関の型式などを確かめるために係留地に赴いたところ、船首喫水が増大していることに気付き、各区画を目視点検して船首倉庫内のみに深さ約80センチの滞留水を認めたが、これは雨水がどこからか浸入したもので、同倉庫は漁具庫や機器室などの他の区画と同様に水密構造となっているので大事には至るまいと思い、速やかに滞留水を排水するなりして同倉庫内の浸水箇所の、点検を十分に行うことなく、船首倉庫船底に亀裂を生じていることにも、海水が漁具庫床下前面の工事用開口から同床下の空所に浸入していることにも気付かないまま、後日船首倉庫の滞留水を排出することとして係留地を離れ、日常の業務に就いた。

その後、福栄丸は、船首倉庫船底の亀裂が拡大して破口し、漁具庫床下空所の滞留水によって同床が水圧を受け、同床中央部の電線管貫通部周辺を塞いだFPRの塗膜に生じていた2箇所の亀裂が急速に拡大し、漁具庫のみならず、水抜き用開口から機器室にも海水が流入し、更に機器室と機関室間隔壁の工事用開口から機関室にも海水が流入して浮力を喪失し、同月24日10時ごろ前示係留地点において、マストを海面から出した状態で沈没した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
A指走海難関係人は、修繕船を大村湾まで回航していたところ、福栄丸沈没の報を受け、急ぎ係留地に戻って事後措置に当たった。
沈没の結果、重油約1キロリットルが流失したが、崎戸町の役場、漁業協同組合及び付近の製塩工場などの協力で流失油の処理がなされ、また、船体は、引き揚げられたが、機関などにぬれ損を生じ、のち全損処分された。


(原因)
本件沈没は、長崎県崎戸港奥の入江に無人状態で係留中、船首倉庫内浸水箇所の点検が不十分で、同倉庫船底の破口から他の区画にも海水が流入し、浮力を喪失したことによって発生したものである。


(指定海難関係人の所為)
A指走海難関係人が、長崎県崎戸港奥の入江に平素無人で係留中の係船管理を引き受けた福栄丸の船首倉庫に滞留水を認めた際、速やかに排水するなりして浸水箇所の点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、船舶所有者が古い船体を長期間にわたって任せきりとしており、その管理を無償の善意で行っていたことに徴し、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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