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1999年(平成11年)

平成11年長審第24号
    件名
作業船忠丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成11年10月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:忠丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関及び電気系統などに濡損

    原因
岸壁係留状態の点検不十分

    主文
本件沈没は、岸壁係留状態の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月25日10時30分
長崎県口之津港
2 船舶の要目
船種船名 作業船忠丸
総トン数 4.97トン
全長 約13.5メートル
登録長 12.24メートル
幅 2.29メートル
深さ 0.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 47キロワット
3 事実の経過
忠丸は、航行区域を限定沿海区域とする一層甲板型のFRP製作業船であったが、A受審人と同人の兄が、熊本県天草郡五和町通詞島北岸で施工中の護岸工事現場に長崎県口之津港から通勤するため、熊本県二江漁港(通詞島地区)と口之津港間の渡し船として使用していたところ、両人が同現場での作業を終えて乗り組み、船首0.30メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、平成10年1月21日16時30分同漁港を発して口之津港に向かった。
17時00分ごろA受審人は、口之津港灯台から314度(真方位、以下同じ。)460メートルばかりの口之津港内の係留地点に至り、いつものとおり、特別の強風対策を講じないで係留することにし、正船尾から自重約30キログラムの唐人型錨を投入して直径18ミリメートル(以下「ミリ」という。)のクレモナ製錨索を約55メートル延出し、船首を南に向け、東西方向に構築された岸壁に船首付けとする目的で、直径約15ミリのポリエチレン製係船索を船首部両舷から逆八の字形に約8メートル延出して岸壁上に設けられた係留環にとり、船首を岸壁から約3メートル離し、岸壁に垂直に取り付けられた鋼製梯子をほぼ正船首に見る状態として係留を終え、同時30分兄とともに同船を離れ、船内を無人状態として自宅に戻った。

ところで、忠丸は、船体ほぼ中央部甲板上にウインチ室、同室後方に操舵室を設け、甲板下を船首から順に物入れ、空所、魚倉、空所、物入れ、魚倉及び機関室と区画し、同室が全長の約3分の1を占め、空所はいずれも水密構造となっていたが、操舵室には後壁を設けていなかった。また、船首端には前方へ約20センチメートル(以下、「センチ」という。)突き出した作業用鋼製ローラーがあって、同ローラーの支柱下部に作業用ワイヤーを固定するためのU字形をした鋼製金物(以下「金物」という。)が取り付けられ、金物と船首端との間には約10センチのすき間があり、船尾甲板の右舷側に舵取機を設け、その船尾方甲板上には作業時に船首を固定するために使用する自重約20キログラムの錨を2個たつに縛って固定していた。
なお、機関室に通じる開口部としては、船尾端から船首方約2.6メートルのところの操舵室床面に、長さ約75センチ幅約70センチの前後方向にスライドする蓋を設けた機関室後部出入口、同出入口の左舷側にエンジンリモートコントロール用の電線などを通すための内径約5.0センチのパイプ、同出入口の右舷側にテレモーター用銅管を通すための内径約3.2センチのパイプ及びウインチ室の後部右舷側甲板上にさぶたで覆った機関室前部出入口があり、いずれも水密を保つ構造とはなっていなかった。

自宅に戻ったA受審人は、工事現場での作業時からの風邪が悪化し、同21日夜から寝込む状態となり、翌々23日のテレビジョンの天気予報で、海上強風警報が九州西方海上全域に対して発表され、北西寄りの季節風が次第に強まってくることを知り、自らは寝込んでいて忠丸の係留状態を点検しに行くことができなかったが、同船は口之津港の港内に係留しているうえ、風力も大したことはあるまいと思い、兄に頼んで同船の様子を見に行ってもらうなど同船の係留状態に対する点検を何ら行うことなく、いつもの係留方法では強風に対し、安全を保つことができないことに気付かなかった。
こうして忠丸は、同月24日10時ごろから北西風ないし北北西風が強まり、右舷後方から風波を受けて船体が大きく上下動し、やがて錨が引けて船首部が岸壁の鋼製梯子に押し付けられる状態となり、17時59分高潮となったのち、潮が引き始めたところ、金物が同梯子のステップにひっかかり、潮位の低下とともに船首が吊り上げられて船尾が沈下し、前示各開口部から機関室内に海水が打ち込み、翌25日00時ごろから潮位が上がり、高潮時に近づき船体傾斜が少なくなってきたころ、金物がステップから外れたものの、船尾が沈下していて更に海水が機関室に流入し、10時30分前示係留地点において、船首部を上方にして右舷側に傾斜した状態で沈没しているのが地元漁船員によって発見された。

当時、天候は曇で、風力5前後の北西風ないし北北西風が1月24日10時過ぎから19時ごろまで吹き、その後、徐々に弱まって同日23時から翌25日00時ごろにかけてほとんど無風状態となり、25日11時30分海上強風警報は解除された。また、潮候は24日17時59分に潮位258センチの高潮、翌25日00時14分に潮位63センチの低潮、07時04分に潮位272センチの高潮であった。
沈没の結果、船体に損傷はなかったものの、機関及び電気系統などに濡損を生じ、のち引き揚げられて修理された。


(原因)
本件沈没は、長崎県口之津港の岸壁に船内を無人状態として係留中、強い季節風が吹く状況となった際、係留状態に対する、点検が不十分であったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長崎県口之津港の岸壁に船内を無人状態として係留し、体調を崩して自宅で休息中、天気予報で強い季節風が吹くことを知った場合、いつものとおりの係留方法で、強風対策を講じていなかったのであるから、忠丸の状況を把握して適切な措置がとれるよう、兄に依頼するなどして係留状態を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、港内に係留していたうえ、風力も大したことはあるまいと思い、係留状態の点検を行わなかった職務上の過失により、折からの強い北西方からの季節風により岸壁に向けて走錨し、船首端の鋼製ローラー支柱下部の金物が岸壁に垂直に取り付けられた鋼製梯子のステップにひっかかり、潮の干満差で船首を吊り上げた状態となり、機関室の開口部から海水が同室に流入して同船を沈没させ、機関や電気系統などに濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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