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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月20日11時05分 大阪湾 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートヒロキ 全長 7.33メートル 幅 1.93メートル 深さ
0.75メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 36キロワット 3 事実の経過 ヒロキは、平成元年9月に製造された、海水混合船尾排気方式の船内外機を装備するFRP製プレジャーボートで、甲板下には船首から順に、前部物入れ、空気室及び活魚倉が配列され、後半部については一部物入れとなっているものの、ほとんどが機関室区画となっており、甲板上の船体中央部やや船尾寄りに設置された機関室囲壁後部の暴露部に操縦スタンドが設けられていた。 主機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した4JH-TZ型ディーゼル機関で、推進器を有するアウトドライブとは連結軸で接続されており、操縦スタンドに設けられた計器盤にキースイッチが備えられ、始動はセルモータで行われていた。 また、主機はの冷却は、直結の冷却清水ポンプによる間接冷却で密閉加圧循環する方式で、清水温度が設定値以上に上昇すると計器盤に組み込まれた警報装置が作動し、警報音を発するとともに警報ランプが点灯するようになっていた。一方、冷却海水系統は、左舷船底の海水吸入口から、海水吸入弁を介して直結の冷却海水ポンプによって吸引された海水が、潤滑油冷却器及び清水冷却器を冷却したのち、過給機排気出口に設けられたミキシングエルボで排気と混合され、排気管内を冷却して船外に排出されるようになっていた。 主機の排気管は、長さ約1.6メートル、外径88.2ミリメートル(以下「ミリ」という。)、肉厚約6ミリの中布巻式の合成ゴムホース製で、通常使用温度が摂氏60度、最高温度が摂氏100度の仕様で製造されており、前端がミキシングエルボヘ上向きに差し込まれ、後端が船尾外板の左舷寄りで水線上約100ミリの位置にある排気口に下方へ傾斜するように取り付けられ、両端をクリップバンドで固定されていた。 ところで、ゴムホース製の排気管は、高温の排気に冷却海水を混合することによって同管内部温度を低下させているもので、主機運転中に海水が通水されなくなると、ミキシングエルボとともに過熱されてホース内側が溶融し、ついにはクリップバンドが効かなくなり、自重で同エルボから抜け落ちるおそれがあった。 A受審人は、中古の本船を平成10年6月に購入し、購入先のボート販売業者から機関の一般的な取扱いや点検箇所について教わり、冷却海水系統については圧力計が備えられていないので、主機始動後や運転中には排気口からの海水吐出状況を確認するよう注意を受け、操船の傍ら機関の運転管理にも当たり、1航海2ないし4時間の魚釣りを8回ばかり行っていた。 そして、A受審人は、同年9月20日09時30分ごろヒロキを係留している大阪府尾崎港に着き、燃料油を補給するなどの発航準備を終えたのち、10時05分に主機を始動した際、折から海中を浮遊していた異物が海水吸入口の目皿に吸引吸着したが、これまでの航海では冷却海水が勢いよく吐出されていたので大丈夫と思い、排気口からの海水吐出状況を確認しなかったことから、冷却海水が供給されないまま主機を運転していることに気付かなかった。 ヒロキは、A受審人が単独で乗り組んで甥1人を同乗させ、魚釣りの目的をもって、船尾トリムの状態で同日10時10分同港を発し、淡路島津名港付近を進路目標として徐々に11ノットまで速力を上げて航行中、排気管が高温の排気で過熱されてミキシングエルボから抜け落ちる一方、主機の冷却が阻害されて冷却清水温度が急激に上昇し、同時30分冷却清水の温度上昇警報装置が作動した。 警報音を聞いた、A受審人は、冷却清水が不足したものと思い、直ちに主機を止めて自然に冷めるのを待つ間、機関室出入口蓋を開けて冷却清水リザーブタンクを見たところ、水位が3分の1ほどあったので、とりあえず手持ちの缶入り茶などの飲用水を補給して水位を上げ、同乗者の携帯電話で発航地所在のボート販売業者に電話したが、留守で連絡が取れないまま、10時40分に主機を再始動したものの、依然として排気口からの海水吐出状況を確かめず、約3分経過したところ再び冷却清水温度上昇警報が作動したため主機を止め、自力航行ができなくなったものと判断し、海上保安部に通報して救援を要請した。 こうして、ヒロキは、A受審人が救援を待つ間、幾度か主機の再始動を試み、警報が出ると主機を止めてしばらく待つという操作を繰り返しているうち、海水吸入口の目皿に吸着していた異物が外れ、冷却海水が通水されるようになったが、排気管が抜け落ちていたことから、同水がミキシングエルボから、長さ1.65メートル幅1.6メートル甲板下の深さ0.5メートルばかりの機関室区画に噴出して船尾が沈下し、さらに海中に沈んだ排気口からも排気管を逆流した海水が同区画に浸入し始めた。 A受審人は、機関室からブクブクという音が聞こえたので同室をのぞいたところ、大量の海水が浸入して主機近くで泡立ちながら増水するを認め、危険を感じて同乗者とともに救命胴衣を着用して船首部に避難したが、船尾から海中に没し始め、活魚倉から前部物入れにも浸水する状況となったため、同乗者とともに海中に飛び込み、ヒロキは、11時05分淡輪港西防波堤灯台から真方位017度3.2海里の地点で浮力を喪失して沈没した。 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は穏やかであった。 沈没の結果、A受審人と同乗者は、漂流していたところを来援の巡視艇に救助され、ヒロキは、2日後大阪湾を直撃した台風によって流失した。
(原因) 本件沈没は、海水混合船尾排気方式の主機を始動後、排気口からの冷却海水吐出状況の確認が不十分で、同水が供給されないまま運転が続けられ、ゴムホース製の排気管が過熱溶融し、過給機出口のミキシングエルボから抜け落ちたところ、再始動によって通水された冷却海水が機関室区画に噴出して船尾が沈下し、さらに排気口からも大量の海水が機関室に浸入して浮力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、海水混合船尾排気方式の主機を始動した場合、冷却海水が供給されていないことを見落とすことのないよう、排気口からの海水吐出状況を確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、これまでの航海では海水が勢いよく吐出されていたので大丈夫と思い、排気口からの海水吐出状況を確認しなかった職務上の過失により、海水吸入口に異物が付着して冷却海水が供給されていないことに気付かないまま運転を続け、ゴムホース製の排気管が過熱溶融して抜け落ちたところ、再始動によって通水された冷却海水が機関室区画に噴出して船尾が沈下し、さらに排気口からも大量の海水が機関室に浸入して沈没を招くに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |