日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年広審第121号
    件名
引船第十七龍神丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成11年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
    指定海難関係人

    損害
主機、航海計器、電気機器なとがぬれ損

    原因
ビルジ排出作業不適切(移動式水中ポンプの海水逆流防止措置不十分)

    主文
本件沈没は、移動式水中ポンプの海水逆流防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月24日07時00分
水島港
2 船舶の要目
船種船名 引船第十七龍神丸
総トン数 19トン
全長 18.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
3 事実の経過
第十七龍神丸は、昭和63年3月に進水した、幅4.10メートル深さ1.80メートルの鋼製引船で、甲板下には、船首から順に錨鎖庫、船員室、長さ約7.00メートルの機関室、左右舷の船尾側燃料タンク及び操舵機庫を配置し、機関室前部上方に操舵室を備えており、また、機関室の前部船底から高さ1.00メートルの船首側燃料タンク上部の空所には、船横方に隔壁で仕切り、その右舷側に浴室及び便所を、左舷側囲壁に鋼製風雨密戸(以下「鋼製扉」という。)をそれぞれ設け、左舷側甲板から鋼製扉を経て機関室、船員室及ひ操舵室に出入りできるようになっていた。
機関室は、中央に主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6UB-UT2型と称するディーゼル機関を備え、同機の前部に据え付けたビルジ兼雑用水ポンプ、主空気圧縮機、甲板機械用油圧ポンプ及び充電機などが主機の動力取出軸によりベルトで駆動されるようになっていたほか、同室の前部左舷側に蓄電池4個、後部右舷側に船内電源の直流24ボルト用コンセント及び船尾管グランド部下方にビルジだめを設けていた。
ところで、機関室のビルジ排出は、ビルジだめからビルジ兼雑用水ポンプによりビルジを船外に排出できるようになっていたが、特に停泊時、同ポンプを運転するその都度、主機を始動しなければならず、いつしか同だめに直流24ボルトで駆動する吐出口径25ミリメートル(以下「ミリ」という。)の移動式水中ポンプを投入し、同ポンプの吐出口に外径約30ミリ内径約25ミリの、逆止弁など弁が一切付いていないビニール製排水ホースを取り付け、同ホースを同室左舷側囲壁後部の丸窓から甲板上に出し、甲板上高さ約65センチメートルのブルワーク越しに舷外の海面下まで垂れ下がった状態で、同ポンプ電源コードのプラグを後部右舷側にあるコンセントに差し込み、同ポンプに発停用スイッチが設けられていなかったことから、前部右舷側壁面に取り付けられた蓄電池スイッチ及び配電盤のコンセント用スイッチをそれぞれ投入し、同ポンプを運転してその排出が行われていた。
A指定海難関係人は、本船のほか引船4隻、台船及び交通船各2隻を所有するR有限会社の代表取締役で、岡山県水島港玉島2号ふ頭近くに事務所を構え、船員の雇用、配乗など労務関係及び社船の保船管理も行っていたほか、自ら船長としてほかの引船に乗り組んでその運航にも携わっていた。
本船は、平成9年12月16日14時30分台船の曳航(えいこう)作業を終えて水島港に帰港したが、仕事量の減少によりしばらく運航を中止することとなり、船員室下部の二重底に清水約3トン及び各燃料タンクに燃料油合計約5トンを入れたまま、船首0.40メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、水島港八幡防波堤灯台から真方位083度1,100メートルの水島港玉島2号ふ頭南端の岸壁に船首を東方に向け、船首尾に係船索をとって左舷付け係船され、このとき乗り組んでいた船長が退職して船を下りたところから、A指定海難関係人が本船の係船管理を行うこととなった。
A指定海難関係人は、同日午後本船に赴き、機関室のビルジだめにたまっていたビルジを水中ポンプが空気を吸引するまで運転して排出し、船内電源及び機器を止め、海水吸入弁及び船外吐出弁を閉弁したうえで係船を開始し、その後、無人となった本船にときどき赴いて船体及び機関室各部の点検を行っていた。
同月23日朝本船に赴いたA指定海難関係人は、船尾管グランドなどからの海水の漏洩(ろうえい)で機関室のビルジだめにビルジが滞留しているのを認めてこれを排出することとし、水中ポンプの排水ホース端が海面下に垂れ下がっていることを確認したのち、同ポンプ電源コードのプラグをコンセントに差し込み、蓄電池スイッチ及びコンセント用スイッチを投入し、08時00分ごろから同ポンプによりビルジの排出を始めた。
08時10分ごろA指定海難関係人は、急ぎの用事を思い出し、蓄電池スイッチ及びコンセント用スイッチを切って水中ポンプを停止し、機関室、船員室などに至る鋼製扉のクリップハンドルを軽く締めたまますぐ離船した。しかしながら、同人は、同ポンプを停止した際に排水ホース端を甲板上に引き上げるなど、同ポンプの海水逆流防止措置をとらなかったので、同ホース内が海水で充満し、同ホース端が海中に深くつかっていたことから、サイフォン現象により海水が同ホースを経て機関室のビルジだめに逆流する状況となった。
こうして、本船は、水中ポンプの排水ホースを経て海水が機関室のビルジだめに逆流し続け、同室の浸水量が次第に増加して沈下し、甲板上が水面下となり、鋼製扉のすき間などから多量の海水が同室及び船員室に浸入して船体が浮力を喪失するに至り、翌24日07時00分前示係船地点において、付近の通行人により水没底触して操舵室上のマストを水面上に出しているのが発見された。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、海上は穏やかで、潮候は高潮時であった。
沈没の結果、本船は、サルベージ会社の起重機船で引き上げられたが、主機、航海計器、電気機器などがぬれ損し、のちこれらの機器が修理若しくは新替えされた。

(原因)
本件沈没は、機関室のビルジだめに投入した水中ポンプでビルジを排出中、急用のため同ポンプを排出途中で停止して離船する際、同ポンプの海水逆流防止措置が不十分で、海面下まで垂れ下がった排水ホース端から海水が水位の低い同だめに逆流し続け、多量の海水の浸入により船体が浮力を喪失したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、機関室のビルジだめに投入した水中ポンプでビルジを排出中、急用のため同ポンプを排出途中で停止して離船する際、排水ホース端を甲板上に引き上げるなど、同ポンプの海水逆流防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、その後社船の安全管理に努めている点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION