日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第55号
    件名
プレジャーボートあをい丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:あをい丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
本船水没し、多数の機器が濡損

    原因
燃料を積み込むにあたり、主機排気管ゴム継手取替工事の進捗状況確認不十分

    主文
本件沈没は、主機排気管ゴム継手取替工事の進捗状況確認が不十分で、同継手が取り外されたまま燃料が積み込まれ、船尾の主機排気口から海水が船内に浸入し、浮力を失ったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月15日17時30分ごろ
長崎港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートあをい丸
総トン数 8.5トン
全長 16.20メートル
登録長 13.07メートル
幅 3.00メートル
深さ 1.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 382キロワット
3 事実の経過
あをい丸は、海砂の採取、販売等を主たる業務とするA受審人が海砂採取船の交通艇代わりにも使用する目的をもって、昭和63年9月に竣工させた軽合金製の一層甲板型小型遊漁兼用船で、船尾に長さ約1.3メートルの張出甲板を有し、航行区域を限定沿海区域と定め、長崎県郷ノ浦漁港を基地として、一本釣りや流し網などを行っていたところ、平成3年8月長崎港に回航されてからは、同港の元船物揚場を定係地とし、同受審人が船長となり、プレジャーボートとして使用されるようになった。
船体は、甲板上のほぼ中央から船尾方にかけて、前部を船室、後部を操舵室とした甲板室を設け、同室の下方に長さ約4.2メートル幅約3.0メートルの機関室を配置し、操舵室の後壁に甲板室出入口を、操舵室の床に機関室出入口を、機関室の両舷側と前部に燃料タンクを、機関室の中央に主機をそれぞれ備えていたが、平成9年10月に主機が昭和精機工業株式会社製6KS-ET型と称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関に換装され、主機の出力が3割近くも増大した。
また、機関室前部隔壁の前方には、船首側から順に船首倉庫前部倉庫、氷倉及び魚倉を、機関室後部隔壁の後方には、燃料タンク、魚倉等を挟んだ左右両舷の後部倉庫及び舵機室を挟んだ左右両舷の船尾倉庫の順にそれぞれ配置してあり、全燃料タンクの合計容量が約2.8キロリットルであった。
ところで、主機の排気管は、各シリンダヘッドから過給機に至るもののほか、過給機から機関室天井至近までいったん立ち上がったのち、降下して機関室後部隔壁の前方右舷側に至る曲管と、同隔壁、右舷後部倉庫及び右舷船尾倉庫を順に貫通して張出甲板の後端下方近くに至る長さ約5メートルの直管とがあり、両管とも直径約20センチメートル(以下「センチ」という。)のステンレス鋼製とし、直管の後端すなわち主機排気口の中心を基線から約90センチの高さに定め、直管の基線に対する傾斜を船首方に向けて約1,000分の12の登り勾配として、曲管と直管を厚さ約2センチ長さ約1メートルのゴム継手で接続してあり、曲管内に排出された主機の冷却海水が同継手を冷却するようになっていたものの、同継手は竣工以来、主機換装後も継続使用されていて、内面の焼損が著しく進行した状態となっていた。
一方、A受審人は、平成7年ごろから、ふぐによる食当たりで平衡感覚に支障を生じて体が不自由になり、1箇月に2回程度しか本船を使用しなくなっていたところ、同10年4月18日久しぶりに本船に乗り組み、同乗者2人を乗せ、同日正午ごろ長崎港を発し、発航時から主機の回転計が故障していることに気付いたものの、そのまま長崎県男女群島周辺の海域に至って釣りを行い、やがて主機排気管のゴム継手に焼損による破口を生じて主機の冷却海水が機関室内に漏れ出るようになったことに気付かないまま、翌19日正午過ぎ、各燃料タンクがほとんど空になり、主機排気口の下縁が海面より数センチ高くなった状態で長崎港に戻り、定係地の岸壁に船首付けとし、船首から岸壁に2本の係留索を、船尾から係留ブイに1本の係留索をそれぞれとり、主機を停止して甲板室の出入口扉に施錠し、鍵をいつものようにタオルで包んで操舵室左舷側のブルワーク内側に掛け、同乗者とともに上陸して船内を無人とした。
同年5月12日A受審人は、主機の回転計が故障していることを思い出し、本船の竣工以来主機の整備を依頼していて、甲板室出入口扉の鍵のありかも知っている修理業者に、同回転計の修理と燃料こし器エレメントの取替えを依頼した。
翌13日A受審人は、修理業者から、主機の回転計と燃料こし器エレメントはいずれも新替えしたが燃料タンクがほとんど空で同こし器のエア抜きができないから、燃料を補給してもらいたいと告げられるとともに、ゴム継手に焼損による破口を生じて機関室内に多量のビルジがたまっていると知らされ、同継手の取替工事を依頼したところ、メーカーの代理店から同継手の新品を取り寄せて取り替えるとの返事を受けた。
越えて同月15日A受審人は、ゴルフ場の落成式に出席するため、友人とゴルフ場に向かう途中、修理業者からゴム継手の取替工事を完了した旨の報告を受けてなかったので、同工事の進捗状況などを確認してから、ほとんど空になっている燃料タンクに補油することとし、定係地に寄って本船を見たところ、干潮時で、不自由な体では岸壁から移乗できず、また、それまでの経験から、燃料のA重油を2キロリットル積み込むと主機排気口が半分ほど海中に漬かり、場合によっては海水が同継手の部分にまで侵入することを知っていたが、甲板室の出入口扉が施錠されているのを見ただけで、同工事は完了しているものと思い、修理業者に同工事の進捗状況を確認することなく、同継手が取り外されたままであることに気付かないで、15時ごろ燃料販売店に燃料2キロリットルを積み込むよう電話で依頼し、定係地を離れてゴルフ場へ行った。
こうして本船は、船内を無人として岸壁係留中、岸壁からタンクローリーによって燃料2キロリットルが積み込まれた結果、主機排気口から海水が逆流して機関室に浸入するようになり、やがて機関室から後部倉庫、船尾倉庫へと順次海水が流入して浮力を失い、同日17時30分ごろ長崎港旭町防波堤灯台から真方位050度750メートルばかりの地点において、付近で係留中の漁船の乗組員により、右舷側に傾き、前部左舷側のみ海面上に出ているのを発見された。
当時、天候は小雨模様で風力1の北東風が吹き、月齢は18.5日で、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、ゴルフ場の落成式の祝賀会が始まって間もなく、本船に異変が生じたことを知らされ、急いで定係地に戻って事後の処置にあたり、流出油の処理や船体の引上げを行って入渠させ、濡損した多数の機器の修理等を行った。

(原因)
本件沈没は、長崎港において岸壁係留中、燃料を積み込むにあたり、主機排気管ゴム継手取替工事の進捗状況確認が不十分で、同継手が取り外されたまま燃料が積み込まれて船尾の主機排気口が海中に漬かり、同排気口から海水が逆流して船内に浸入し、浮力を失ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、修理業者に主機排気管ゴム継手の取替工事を依頼したのち、同工事の進捗状況などを確認してから、ほとんど空になっている燃料タンクに補油しようとし、岸壁係留中の本船に赴いたところ、干潮時で岸壁から移乗できなかった場合、修理業者から同工事を完了した旨の報告を受けてなく、また、補油後は主機排気口が半分ほど海中に漬かり、場合によっては海水が同継手にまで浸入することを知っていたのであるから、同継手が取り外されたまま補油することのないよう、修理業者に同工事の進捗状態を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板室の出入口扉が施錠されているのを見ただけで、同工事は完了しているものと思い、同工事の進捗状況を確認しなかった職務上の過失により、同継手が取り外されたまま、岸壁に無人係留中の本船に燃料を補給させて海水の船内浸入を招き、多数の機器の濡損、燃料の船外流失等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION