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1999年(平成11年)

平成10年函審第53号
    件名
遊漁船第八北龍丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成11年1月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第八北龍丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
沈没し全損

    原因
漏水の防止措置不十分

    主文
本件沈没は、船底部のぞき窓鋼製蓋の漏水防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月18日13時30分
北海道留萌港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第八北龍丸
全長 14.70メートル
幅 2.59メートル 
深さ 0.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 250キロワット
3 事実の経過
第八北龍丸(以下「北龍丸」という。)は、一層甲板型のFRP製遊漁船で、船尾部甲板下にプロペラの絡網事故などに備えたのぞき窓区画があり、同区画の船尾側に隣接する舵取機区画とが箱型で一体の水密区画となっていて、その中央部付近に高さを甲板線に合わせた仕切板が設けられ、甲板上には、これらを一体に囲んだ高さ約10センチメートル(以下「センチ」という。)のハッチコーミンクがあって1個のかぶせ蓋をするようになっていた。のぞき窓区画の船底には、舷窓とほぼ同じ構造の直径約20センチで蝶ねじ4個を備えた鋼製蓋が設けられ、同蓋の中央部に直径約6センチの円形ガラスがはめこまれていた。舵取機区画の船首左舷側には、底部にビルジ排水口があり、内径35ミリメートルの排水管が機関室につながっていて、同区画のビルジは機関室内に流れるようになっていた。
A受審人は、平成8年10月に主機を換装し、プロペラを径の大きなものに取り替えたところ、プロペラ水流の変化と船尾部の振動の増加で、のぞき窓区画鋼製蓋からの漏水量が以前より増加したので、ハッチコーミング内側桟の下部と鋼製蓋にそれぞれ角材を横にしてあてがい、角材間にジャッキを挿入し、鋼製蓋を蝶ねじとジャッキで圧して漏水を止める措置をとったが、自らが行った措置で漏水量が減ったから大丈夫と思い、専門の業者に依頼して同区画の漏水の完全な防水措置をとらなかった。
北龍丸は、釣客10人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成10年4月18日05時40分留萌港第2区の貯木場の船だまりを発し、06時30分同港北西方沖合の釣り場に至って釣りを開始したが、その後釣り場の移動で航行しているうち、船尾部の振動とプロペラ水流の影響で、いつしか、のぞき窓鋼製蓋の蝶ねじとジャッキが外れて同蓋が開き、プロペラ水流の影響でのぞき窓区画の水位が上昇して、同区画の海水が仕切板上端から舵取機区画に流入し、これが機関室に導かれた排水管を経由して同室内に浸入するようになった。
08時20分A受審人は、釣り場を移動する目的で、留萌灯台から319度(真方位、以下同じ。)9.1海里の地点を発し、針路を325度に定め、機関の回転数を毎分2,000とし、15.0ノットの対地速力で進行した。08時40分A受審人は、留萌灯台から325.5度13.9海里の地点に産したとき、機関の回転数が毎分1,000に落ちたことから、不審に思って機関のクラッチを中立とし、機関室の点検をするつもりで後部に向かったとき、のぞき窓区画のハッチコーミング船尾側の甲板が海面下約5センチとなっており、驚いて同区画のかぶせ蓋を開けたところ、同区画と舵取機区画とが冠水していることを認め、操舵室に戻って電話で友人を介して僚船に救助を要請した後、機関室をのぞいたところ、同室も浸水していることを知り、直ちに機関を停止した。
北龍丸は、間もなく左舷側に大きく傾斜して船尾部から海没し、船首部のみを海面上に出す状態となり、海中に投げ出されたA受審人と釣客が船首部にすがるなどして漂流中、09時20分ごろ通りかかったロシア船籍の貨物船に全員救助されたが、北龍丸は、13時30分留萌灯台から324度13.8海里の地点で浮力を喪失して沈没した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、波高は約0.5メートルであった。沈没の結果、北龍丸は全損となった。

(原因)
本件沈没は、主機を換装し、プロペラを径の大きなものに取り替えた後、のぞき窓区画鋼製蓋からの漏水量が増加した際、漏水の防止措置が不十分で、振動とプロペラ水流の影響により鋼製蓋圧着用の蝶ねじとジャッキが外れ、同区画に浸入した海水が隣接の舵取機区画のビルジ管を経て機関室に浸入し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を換装し、プロペラを径の大きなものに取り替えた後、船底に設けられたプロペラ点検用のぞき窓鋼製蓋のパッキン部からの漏水が以前より増加したのを認めた場合、船尾部の振動が以前より大きくなったから、振動に耐え得る防水となるよう、専門の業者に依頼して防水措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自ら行った蝶ねじとジャッキによる同蓋の圧着で漏水量が減少したから大丈夫と思い、専門の業者に依頼して防水措置をとらなかった職務上の過失により、鋼製蓋の蝶ねじとジャッキが振動とプロペラ水流の影響により外れて同蓋が開き、のぞき窓区画から同区画に隣接する舵取機区画に流入した海水が機関室に浸入する事態を招き、船体を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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