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1999年(平成11年)

平成11年那審第29号
    件名
作業船第一海洋丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年12月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:第一海洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第一海洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機及び主配電盤などぬれ損

    原因
機関室船底内面に対する腐食状況の点検不十分及び同室ビルジ量を点検させる指示不十分

    主文
本件遭難は、機関室船底内面に対する腐食状況の点検及び同室ビルジ量を点検させる指示がいずれも不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月1日16時00分
那覇港
2 船舶の要目
船種船名 作業船第一海洋丸
総トン数 117.77トン
登録長 24.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
3 事実の経過
第一海洋丸(以下「海洋丸」という。)は、昭和49年3月に進水した鋼製揚錨船で、平成10年10月からR株式会社が所有する非自航式杭打船ぱいおにあ第10フドウ丸(以下「フドウ丸」という。)と2隻で船団を構成し、A及びB両受審人が乗り組み、那覇港コンテナバース延長のための基礎工事に従事していた。
海洋丸は、平甲板船で、甲板上の中央やや船尾寄りに船橋、その後方に機関室囲壁があり、これらの下方の甲板下が機関室になっていて、同囲壁後方の両舷に同室に通じる扉が設けられ、さらに、同囲壁上には天窓が備えられ、また、船橋前方の甲板上には転錨用揚錨機を装備していた。

機関室には、下段の中央に主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6M−T型と称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関2基(以下「右舷主機」「左舷主機」という。)、船首側中央部に主配電盤、右舷主機の動力取出軸にベルト駆動されるクレーン用油圧ポンプ、左舷主機前方左舷側に補機駆動発電機、両舷側の中央から後方にかけて燃料油タンク、さらに、同室前方上段の左舷側に操舵機用油圧ポンプ、同右舷側に主機警報盤、同室後方上段の右舷側に空気圧縮機などが設置されていた。
また、プロペラ軸が貫通する船尾管は、リグナムバイタ製支面材を装着し、同管の機関室側先端に船尾管グランド部を設け、グランドパッキンを充填して同管から海水が機関室に浸入するのを防止するようになっていたが、同支面材の潤滑と冷却のため、運転中は同グランド部から少量の海水が滴下するようにグランドパッキンの締付を調整する必要があった。

ところで、機関室船底は、単底構造で、厚さ9ミリメートルの鋼板が使用され、同船底内面には、船尾管グランド部から滴下した海水のほか、主機直結冷却海水ポンプのグランド部から漏洩した海水及び各機器類から漏洩した油類やごみなどがビルジとして滞留するようになっていた。そして、昭和61年5月の臨時検査工事において、フレーム番号8から同13の間において、中心線をはさんで両舷にそれぞれ幅約750ミリメートルの範囲で同船底外板の一部が新替えされていたが、その後、同船底内面のフレーム番号12の位置から約200ミリメートル後方で中心線から左舷方約250ミリメートルの箇所に、金属性の異物がいつしか付着し、同異物の腐食が進行するとともに、それに接していた船底内面に局部腐食が生じるようになった。
A受審人は、平成2年4月から船長として乗り組み、操船のほか船体の保守管理にあたり、船体の老朽化が進行していたことから、船底外板の破孔による浸水など、ビルジの増加には注意を払い、船内巡視を行うときには、自らも機関室に入ってビルジ量の点検を行うようにしていた。

一方、B受審人は、同9年9月から機関長として乗り組み、機関の運転管理にあたり、機関室のビルジ処理については、そのときの工事日程と調整し、ほぼ4箇月毎に陸上施設に陸揚げして処理するようにし、これまで、3回ばかりビルジ処理を実施したが、いずれも機関室船底にはわずかにビルジが残った状態であったものの、ビルジを陸揚げ処理するだけで大丈夫と思い、完全にビルジを排除して同船底内面を掃除するなどして、同内面に対する腐食状況を十分に、点検することなく、前示局部腐食が生じ、板厚が薄くなっていたことに気付かなかった。
海洋丸は、同10年12月25日に年内の作業を終え、那覇港浦添北内防波堤灯台から真方位160度580メートルの地点において、フドウ丸の右舷中央部に左舷を接して係留した。
海洋丸は、年末年始にかけてのA及びB両受審人の休暇中の船内巡視について、29日まではフドウ丸の乗組員が作業に従事していたことから、同乗組員に頼むこととしたものの、30日以後は、同乗組員も帰省して不在になり、フドウ丸を巡視していたR株式会社の社員3人と、A及びB両受審人の5人の輪番でフドウ丸と併せて行うこととし、同社が定めていた巡視要領に基づき、08時00分から17時00分の間を当番員の在船時間と定め、待機場所をフドウ丸とし、1日に1回巡視を行うこととした。

ところが、A受審人は、海洋丸の船体が老朽化し、ビルジの点検に注意を払っていたにも拘らず、機関室ビルジの点検について、天窓からビルジ量が見えるように床板の一部を外して立てかけ、さらに、異状があれば同室に入れるように鍵を船橋に置き、前示R株式会社の社員3人に対し、機関室を点検するよう口頭で伝えたから大丈夫と思い、毎日同室ビルジ量を点検するよう指示を十分に行わなかった。
こうして、海洋丸は、無人のまま係留中、1日1回の船内巡視が行われていたものの、機関室ビルジ量を点検する指示が不十分で、同ビルジ量が点検されず、前示局部腐食が進行し、直径が約9ミリメートルの破孔を生じ、機関室に海水が浸水しはじめ、同室ビルジが徐々に増加していたが、そのまま放置され、1月1日16時00分前示係留地点において、巡視にきた社員の1人が喫水の異状に気付き、機関室をのぞいたところ、同室全体が床板の上まで浸水しているのを発見した。

当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、自宅で連絡を受け、海洋丸に急行し、R株式会社に排水ポンプの手配を依頼するとともに、B受審人に連絡をとり、さらに、関係先に救援を求め、オイルフェンスを本船の周囲に展張して本船とフドウ丸が所有していた排水ポンプ2台で排水を開始し、その後、2台の排水ポンプを加えて排水作業を行ったところ、水位が低下し、前示破孔からの浸水を認め、応急措置を行った。
海洋丸は、その後、関係先と協議し、造船所に回航して入渠し、破孔部の本修理とぬれ損を生じた主機及び主配電盤などの修理並びに発電機の新替えなどが行われた。


(原因)
本件遭難は、機関室のビルジを陸揚げ処理する際、同室船底内面に対する腐食状況の点検が不十分で、局部腐食の進行した同面に破孔を生じたことと、船を係留して無人とするにあたり、乗組員以外の者に船内巡視を行わせる際、同室ビルジ量を点検させる指示が不十分で、ビルジ量の点検が行われず、前示破孔から浸水してビルジ量が徐々に増加する状態のまま放置されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、船を係留して無人とするにあたり、乗組員以外の者に船内巡視を行わせる場合、船体の老朽化が進行し、船底外板の破孔による浸水のおそれがあったのであるから、浸水の有無が分かるよう、機関室ビルジ量を点検させる指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関室の天窓からビルジ量が見えるように床板の一部を外して立てかけ、さらに、異状があれば同室に入れるように鍵を船橋に置き、機関室を点検するよう口頭で伝えたから大丈夫と思い、同室ビルジ量を点検させる指示を十分に行わなかった職務上の過失により、同ビルジ量の点検が行われず、同室船底に局部腐食によって生じた破孔から浸水して同ビルジ量が徐々に増加したまま放置し、同室に浸水を招き、主機及び発電機などにぬれ損を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、機関室のビルジを陸揚げ処理する場合、同室船底内面にはビルジが常時滞留している状態であったから、同面に局部腐食が生じているのを見落とすことのないよう、完全にビルジを排除して同面を掃除するなどして、同面に対する腐食状況を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、ビルジを陸揚げ処理するだけで大丈夫と思い、機関室船底内面に対する腐食状況を十分に点検しなかった職務上の過失により、同面が局部腐食していたことに気付かず、同船底に破孔を生じさせ、同室に浸水を招き、前示のぬれ損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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