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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月23日03時45分 北海道目梨郡羅臼町相泊漁港内 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十八博洋丸 総トン数 9.98トン 登録長 12.75メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
404キロワット 回転数
毎分2,000 3 事実の経過 第三十八博洋丸(以下「博洋丸」という。)は、昭和51年3月に進水し、刺網漁業などに従事する中央船橋型FRP製漁船で、上甲板上の船橋後部が機関室囲壁で、上甲板下が船首側から順に魚倉、機関室、操舵機室になっていた。 機関室は、中央に装備された主機のほかに、60キロボルトアンペアの集魚灯用交流発電機が前部左舷側に、3キロワットの充電用発電機が前部右舷側に備えられ、いずれも主機の動力取出軸からベルト駆動されるようになっており、また、右舷側中央に雑用ポンプ、左舷側前寄りに魚倉ビルジポンプ、後部右舷側に燃料油移送ポンプ、後壁沿い中央の船底に機関室ビルジポンプがそれぞれ設置され、後部床上には12ボルトの蓄電池が6個据え置かれていた。なお、機関室ビルジポンプは、蓄電池を電源とする水中ポンプで、ビルジ量を検出して自動運転するようになっていた。 ところで、船尾管は、軸受ブッシュ部分にリグナムバイタを支面材として取付けた海水潤滑式で、また、船尾管の軸封装置はグランドパッキン型で、船尾管本体の船首側端に設けられたパッキン箱にグリスコットンパッキンを挿入し、パッキン押えを船尾管端に植え込んだ左右各1本の案内ボルトに通してナットで締め込み、パッキンを圧縮して海水の漏えい量を調整するようになっていた。 A受審人は、昭和63年11月に中古の本船を購入して船長で乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、毎年4月から12月まで刺網漁業に従事し、そのほかに9月ないし10月から12月まではいか一本釣漁業にも従事していたもので、船尾管のパッキン押えの取扱いに当たっては、4月の操業開始時及び8月のお盆休みを終えて操業を再開した時に、水滴が垂れる程度に調整し、それ以外の操業中及び停泊中には調整していなかったが、機関室のビルジは、同室ビルジポンプの電源スイッチを常時投入状態としていたので、船尾管グランド部からの漏水が同ポンプによって自動排出され、多量に滞留することはなかった。 博洋丸は、平成8年1月から3月までの休漁期間中に主機及び逆転減速機が換装され、その際プロペラ軸を抜き出したので、船尾管グランドパッキンを業者が新替えし、翌4月から日帰りの刺網漁業に従事していた。 A受審人は、主機換装後、船尾管のパッキン押えを調整しないまま操業に従事していたところ、船尾管グランド部からの漏水が多くなったので、同年8月のお盆休みの休漁中にグランドパッキンを1本増入れし、9月初めにパッキン押えの増締めを一度行ったが、しばらくして漏水が多くなり気になったものの、入港後パッキン押えを増締めして漏水を止めていなかった。 博洋丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、9月21日午前中、北海道知床半島東方沖合の漁場で刺網漁を行い、同日12時00分相泊漁港へ帰って水揚げした後、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同港西防波堤内側の、相泊港南防波堤灯台から真方位005度100メートルの地点に係留した。 A受審人は、翌22日が休漁日で、23日早朝の出漁まで乗組員全員が離船して船内を無人とすることになったが、機関室ビルジポンプの電源スイッチを常時投入していてビルジが自動排出されるので多少の漏水で浸水することはあるまいと思い、パッキン押えの増締めによる船尾管グランド部の漏水止め措置を十分に行わず、21日13時ごろ乗組員全員が帰宅した。 こうして博洋丸は、無人で岸壁係留中、船尾管グランド部からの漏水が増加し、機関室ビルジポンプの発停が繰り返されているうち、電源の蓄電池が過放電となって同ポンプが停止し、やがて機関室内にビルジが滞留するようになり、翌々23日03時45分前示地点において、出漁準備のため帰船したA受審人が、船体が右舷側に傾斜しているので不審に思って機関室に入ったところ、床板上まで浸水しているのを認めた。 当時、天候は雨で風力1の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 A受審人は、近くで出漁準備に当たっていた僚船から水中ポンプを借りて排水作業を開始し、04時30分同作業が終了したのち修理業者が点検した結果、集魚灯用交流発電機、充電用発電機、蓄電池及び主機始動用発電機並びに雑用ポンプ、魚倉ビルジポンプ及び燃料油移送ポンプの電動機が冠水によりぬれ損し、また、プロペラ軸のグランドパッキンの当たる部分が摩耗しており、のち蓄電池を新替えし、その他の電気機器については洗浄塩出し、乾燥絶縁処理、コイルの巻替え、軸受交換などして修理し、プロペラ軸の摩耗箇所は肉盛り修正した。
(原因) 本件遭難は、船内を無人として岸壁に係留するに当たり、船尾管グランド部の漏水止め措置が不十分で、停泊中、同グランド部から多量の海水が漏えいし、機関室ビルジポンプが頻繁に発停を繰り返すうち、電源用蓄電池の過放電により同ポンプが停止し、機関室ビルジが増加したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、船内を無人として岸壁に係留する場合、船尾管グランド部からの漏水により浸水することのないよう、パッキン押えを増締めして船尾管グランド部の漏水止め措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関室ビルジポンプの電源スイッチを常時投入していてビルジが自動排出されるので多少の漏水では浸水することはあるまいと思い、パッキン押えの増締めによる船尾管グランド部の漏水止め措置を十分に行わなかった職務上の過失により、同グランド部から多量の海水が漏えいし、機関室ビルジポンプが頻繁に発停を繰り返すうち、電源用蓄電池の過放電により同ポンプが停止してビルジが増加する事態を招き、集魚灯用交流発電機、充電用発電機、蓄電池、雑用水ポンプの電動機などを冠水によりぬれ損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |