日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年函審第22号
    件名
(第1)漁船第三十八博洋丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年11月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第三十八博洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
集魚灯用交流発電機、雑用ポンプ、魚倉ビルジポンプの電動機、充電用発電機、蓄電池がぬれ損

    原因
船尾管グランド部の点検不十分

    主文
本件遭難は、船尾管グランド部の点検が不十分で、同部より多量の海水が漏えいしたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月15日16時00分
北海道目梨郡羅臼町相泊漁港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八博洋丸
総トン数 9.98トン
登録長 12.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット
回転数 毎分2,200
3 事実の経過
第三十八博洋丸(以下「博洋丸」という。)は、昭和51年3月に進水し、刺網漁業などに従事する中央船橋型FRP製漁船で、上甲板上の船橋後部が機関室囲壁で、上甲板下が船首側から順に魚倉、機関室、操舵機室になっていた。
機関室は、中央に装備された主機のほかに、60キロボルトアンペアの集魚灯用交流発電機が前部左舷側に、3キロワットの充電用発電機が前部右舷側に備えられ、いずれも主機の動力取出軸からベルト駆動されるようになっており、また、右舷側中央に雑用ポンプ、左舷側前寄りに魚倉ビルジポンプ、後部右舷側に燃料油移送ポンプ、後壁沿い中央の船底に機関室ビルジポンプがそれぞれ設置され、後部床上には12ボルトの蓄電池が6個据え置かれていた。なお、機関室ビルジポンプは、蓄電池を電源とする水中ポンプで、ビルジ量を検出して自動運転するようになっていた。

ところで、船尾管は、軸受ブッシュ部分にリグナムバイタを支面材として取付けた海水潤滑式で、また、船尾管の軸封装置はグランドパッキン型で、船尾管本体の船首側端に設けられたパッキン箱にグリスコットンパッキンを挿入し、パッキン押えを船尾管端に植え込んだ左右各1本の案内ボルトに通してナットで締め込み、パッキンを圧縮して海水の漏えい量を調整するようになっていた。
A受審人は、昭和63年11月に中古の本船を購入して船長で乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、毎年4月から12月まで刺網漁業に従事し、そのほかに9月ないし10月から12月まではいか一本釣漁業にも従事していたもので、船尾管のパッキン押えの取扱いに当たっては、4月の操業開始時及び8月のお盆休みを終えて操業を再開した時に、水滴が垂れる程度に調整し、それ以外の操業中及び停泊中には調整していなかったが、機関室のビルジは、同室ビルジポンプの電源スイッチを常時投入状態としていたので、船尾管グランド部からの漏水が同ポンプによって自動排出され、多量に滞留することはなかった。

博洋丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、いか一本釣漁業の目的で、船首0.5メートル、船尾1.7メートルの喫水をもって、平成7年11月15日15時00分北海道目梨郡羅臼町相泊漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、出港に先立って機関室で主機を始動したが、船尾管グランド部から漏水が増加しても機関室ビルジポンプで自動排出されるので、機器が冠水することはあるまいと思い、機関室船尾側の船底付近を一見しただけで、船尾管グランド部の点検を十分に行わなかったので、パッキン押えを締め付けている2個のナットのうち1個が著しく緩んでいることに気付かず、ビルジがほとんど滞留していないのを確認したのみで同室を離れた。
こうして博洋丸は、主機を回転数毎分1,800の全速力にかけて航行中、パッキン押えのナットのうち著しく緩んでいた側のナットが脱落して船尾管グランド部からの漏水量が急増し、機関室ビルジポンプが自動運転されて浸入した海水を排出したものの、同ポンプの排出能力を超える海水が機関室に浸入したことから次第に同室の浸水面が上昇するようになり、15時40分漁場に到着して相泊港南防波堤灯台から真方位090度2.3海里の地点に投錨し、主機を回転数毎分1,000の中立運転にかけ集魚灯を点灯して操業を開始したところ、16時00分前示操業地点において、集魚灯用交流発電機が冠水して集魚灯が消えた。

当時、天候は晴で風力4の西北西の風が吹き、海上は風波が高かった。
A受審人は、船橋で操業の指揮に当たっていたところ、船体が左舷側に傾斜して間もなく集魚灯が消えたので、主機を緊急停止して機関室に急行し、機関室床板付近まで浸水して船尾管グランド部から激しく海水が漏えいしているのを認め、残っていたパッキン押えのナットを増締めして漏水を止めたのち、近くで操業中の僚船に救助を求めた。
博洋丸は、来援した僚船によって排水作業が行われ、機関室内の海水排出後同船に曳航されて相泊漁港に入港し、修理業者が点検した結果、集魚灯用交流発電機のほかにも雑用ポンプ及び魚倉ビルジポンプの電動機並びに充電用発電機及び蓄電池が冠水しており、のちにこれらぬれ損した電気機器類を水洗い、乾燥、コイルの巻替え、新替えなどして修理した。


(原因)
本件遭難は、出漁のため機関室で出港準備作業を行うに当たり、船尾管グランド部の点検が不十分で、航行中、著しく緩んでいたパッキン押えのナットが脱落し、同グランド部から機関室ビルジポンプの排出量を超える多量の海水が、機関室に浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、出漁のため機関室で出港準備作業を行う場合、船尾管のパッキン押えの緩みを発見できるよう、船尾管グランド部の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾管グランド部からの漏水が増加しても機関室ビルジポンプで自動排出されるので、機器が冠水することはあるまいと思い、船尾管グランド部の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく緩んでいたパッキン押えのナットが航行中に脱落し、船尾管グランド部からビルジポンプの排出量を超える海水が機関室に浸入する事態を招き、集魚灯用交流発電機、充電用発電機、蓄電池、雑用ポンプの電動機などを冠水によりぬれ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION