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1999年(平成11年)

平成10年広審第68号
    件名
貨物船さくら遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年10月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、杉崎忠志、中谷啓二
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:さくら船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船体外板各部凹損、推進器翼曲損、積荷及び機関室内の機器等ぬれ損

    原因
係留地選定不適切

    主文
本件遭難は、係留地の選定が不適切で、風浪にさらされた岸壁に係留中、係留索が切断したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月28日05時15分
今治港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船さくら
総トン数 18トン
全長 25.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 132キロワット
3 事実の経過
さくらは、専ら今治港から伯方島の造船所への鋼材の運搬に従事する船尾船橋型綱製貨物船で、A受審人が単独で乗り組み、平成9年11月27日17時ごろ、積荷の目的で、今治港内の定係地から同船の積荷専用岸壁である同港第2区の鳥生(とりう)岸壁に回航したのち、今治港蔵敷防波堤灯台(以下「蔵敷防波堤灯台」という。)から167度(真方位、以下同じ。)680メートルの地点に左舷付けし、船首及び左舷前部の各ブルワーク上ボラードから斜め前方に1本ずつ、船尾両舷の各ブルワーク上ボラードから斜め後方に1本ずつ、計4本のクレモナ製直径16ミリメートルの係船索をそれぞれ岸壁上のビット等にとって係留した。

ところで、さくらの定係地は、蔵敷防波堤灯台から282度1,400メートルの地点にある今治港第一区の東防波堤により囲まれた泊地内奥の岸壁(以下「定係岸壁」という。)で、船尾からの錨と船首索とで係留しており、A受審人は、平素、午前中鳥生岸壁に回航して積荷を行い、直ちに伯方島に赴いて揚荷したのち、帰途に就いて夕刻には定係岸壁に係留し、船内に居住設備がないことから、夜間は機器類をすべて停止して帰宅するという就業形態をとっていたが、今回、翌日早朝揚地に運搬する荷物があったため、前日のうちにこれを積み込むこととし、夕刻、鳥生岸壁に回航したものであった。
一方、鳥生岸壁は、幅200メートルばかりの蒼社川河口右岸に位置し、河口とその500メートルばかり上流に設けられた防砂堤との間に築造された略最低低潮面からの高さが5メートルの岸壁で、東方に向いた河口には防波堤もなく燧灘に面していたことから、気象海象の影響を受けやすく、東寄りの風が強いとさくらのような小型船はかなり動揺するとともに、2ないし3メートルに達する満潮と干潮の差による係船索の緊張と相まって同索及び船体が損傷するおそれがあった。

A受審人は、このことをよく知っており、鳥生岸壁への回航途中、または同岸壁での荷役中、荒天となった場合には荷役を中止して定係岸壁に引き返すこととし、いわんや、夜間、無人のまま鳥生岸壁に係留しておいたことはなかったが、19時30分ごろ始まった積荷が20時00分鋼材70トンを積載して終了し、船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水となったとき、翌朝の予定出港時刻が早かったことから今回に限りこのまま鳥生岸壁に係留しておけないかとの考えが胸をよぎり、当時、風もなく海面も穏やかで、昼ごろ見たテレビの気象予報では特に注意すべき点もなかったので大丈夫と思い、安全な定係岸壁に回航するなど、係留地を適切に選定することなく、潮の干満に対処できるよう係船索を弛ませただけでまもなく帰宅した。
こうして、さくらは、無人のまま鳥生岸壁に係留していたところ、東シナ海に発生した低気圧の接近に伴い、徐々に増勢した東寄りの風で船体が動揺し始め、荷役終了時ほぼ満潮で岸壁上面より0.3ないし1メートル低い位置にあったブルワークが、翌28日03時28分の干潮とともに2.6メートルばかり下がり、弛ませておいた係船索にもときどき張力がかかるようになって同索と岸壁の角が繰り返し擦られるうち、いつしかすべての係船索が切断して漂流を始め、05時15分出港準備のため鳥生岸壁に赴いたA受審人が、蔵敷防波堤灯台から195度700メートルの防砂堤南端に267度を向いて乗り揚げたさくらを発見した。

当時、天候は晴で風力5の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
遭難の結果、船体外板各部に凹損並びに推進器翼に曲損を生じ、船内に打ち込んだ海水により、積荷及び機関室内の機器等にぬれ損を生じたが、船体はのち修理された。


(原因)
本件遭難は、夜間、今治港において、船内を無人として係留する際、係留地の選定が不適切で、風浪にさらされた岸壁に係留中、引き潮と船体動揺とにより、同索が繰り返し岸壁の角に擦られ切断したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、今冶港において、船内を無人として係留する場合、防波堤に囲まれた安全な定係岸壁に回航するなど、係留地を適切に選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、気象予報では特に注意すべき点がなかったので大丈夫と思い、係留地を適切に選定しなかった職務上の過失により、風浪にさらされた岸壁に係留中、引き潮と船体動揺とにより係船索が繰り返し岸壁の角に擦られ、これらを切断させて遭難を招き、防砂堤に乗り揚げたことにより、船底外板の凹損、推進器翼の曲損、機関室内機器等のぬれ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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