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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月29日20時10分 福岡県博多港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船和信丸 総トン数 197トン 全長 56.32メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 588キロワット 3 事実の経過 和信丸は、昭和59年9月に進水した船尾船橋機関室型鋼製貨物船で、主として関門港と京浜港との間で鋼材輸送に従事していた。 機関室内のビルジは、同室内の船首側と船尾側に配置されたビルジだまりから、ローズボックス、ビルジ元弁及び容量毎時45立方メートルの電動遠心ポンプであるビルジ兼バラストポンプのビルジ吸入弁(以下「ビルジ吸入弁」という。)を経て同ポンプで吸引・加圧され同ポンプのビルジ吐出弁(以下「ビルジ吐出弁」という。)からビルジ船外排出弁を経て船外に排出されるようになっており、ビルジ配管は補機用冷却海水系統にも接続していた。 A受審人は、平成10年5月から和信丸の機関長として乗船していたもので、同年7月21日和信丸が関門港若松区北湊泊地に停泊中、甲板上の錨への散水用弁を取り替えることとし、その際ついでに錆などの発生により開閉が困難となっていた機関室内の船尾側ビルジだまりのビルジ元弁(以下「ビルジ元弁」という。)も取り替えることとし、その取替え工事をB指定海難関係人に依頼することにして、同指定海難関係人を本船の甲板上に伴い、錨への散水用弁のところで両弁は同じものだと説明した。 B指定海難関係人は、A受審人から両弁が5K-50Aの鋳鉄製玉型アングル弁(以下「玉型弁」という。)であることの説明を受けたものの、ビルジ元弁は逆止弁であるとの説明が無かったところから、翌22日従業員2人に逆止弁でない玉型弁との取替え工事を行わせた。 取替え工事終了後、A受審人は、ビルジ元弁が逆止弁でない玉型弁に取り替えられたことを知らないままビルジの吸引テストを行い、機関室内のビルジ排出作業を続けていたが異常は認められなかった。 和信丸は、船長C及びA受審人ほか1人が乗組み、船首2.4メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同月27日14時25分愛知県豊橋港を発し、翌々29日14時00分福岡県博多港須崎埠頭9号岸壁に右舷付けで接岸した。 A受審人は、接岸後、閉弁していたビルジ吸入弁とビルジ元弁を全開し、補機用冷却海水シーチェストからビルジ兼バラストポンプヘの海水吸入弁も呼び水用に開弁して同ポンプを運転し、常時開弁していたビルジ吐出弁とビルジ船外排出弁を介して機関室内の船尾側ビルジだまりのビルジを船外に排出し、同ポンプを停止してビルジ排出作業を終了したが、一緒に帰ろうと待っていた甲板長と急いで帰宅することに気を取られ、ビルジ排出作業のために開弁したビルジ吸入弁、ビルジ元弁及び海水吸入弁の閉弁を確認することなく、15時00分ごろ甲板長と一緒に離船して帰宅した。 こうして、和信丸は、開弁されたままの補機用冷却海水シーチェストの船底弁、呼び水用海水吸入弁、ビルシ吸入弁、逆止弁でない玉型弁に取り替えられたビルジ元弁及びローズボックスを経て補機用冷却海水シーチェストから逆流した海水が機関室内に浸入し続け、17時00分ごろ離船して20時10分帰船したC船長が、博多港西公園下防波堤灯台から真方位110度950メートルの前示接岸地点において、機関室の床から高さ約80センチメートルまで浸水しているのを発見し、同人が持運び式ポンプで海水を排水するなどの事後の措置に当たった。 当時、天候は曇で風力1の北風が吹いていた。 浸水の結果、機関室内の機器類が冠水して濡損を生じ、のち主機、発電機及び電動機などの修理と潤滑油の取り替えが行われた。
(原因) 本件遭難は、機関室内のビルジ排出作業が終了した際、ビルジ吸入弁などの閉弁の確認が不十分で、開弁されたままの諸弁を経て、補機用冷却海水シーチェストから逆流した海水が機関室内に浸入したことによって発生したものである。
(受審人等の所為) A受審人は、博多港須崎埠頭9号岸壁に接岸中、機関室内の船尾側ビルジだまりのビルジ排出作業が終了した場合、機関室内に海水が浸入することのないよう、ビルジ排出作業のために開弁した諸弁の閉弁を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、帰宅することに気を取られ、ビルジ排出作業のために開弁した諸弁の閉弁を確認しなかった職務上の過失により、開弁されたままの諸弁を経て、補機用冷却海水シーチェストから逆流した海水の機関室内への浸入を招き、機関室内の機器類を冠水させて濡損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |