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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月16日17時00分 長崎港 2 船舶の要目 船種船名
漁船平成丸 総トン数 965トン 登録長 57.40メートル 幅
12.00メートル 深さ 7.60メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,985キロワット 3 事実の経過 平成丸は、昭和53年9月ノルウェー王国において建造され、船体中央からやや後方に船橋を有する二層甲板型鋼製網船で、同国でまき網漁業に従事していたところ、平成5年3月R株式会社が同国から購入し、財団法人Sが同国方式のまき網漁業の実験船として運用するため同社から用船し、同年7月11日から操業を開始した。 ところで、コンパス船橋甲板は、マグネットコンパスのほか、マスト、サーチライト、スピーカー及び集魚灯などを設置したほか、周囲にコーミングを巡らせて前後左右に6個の排水口を設け、前部両舷側にサーチライト、スピーカー及び集魚灯などの電線を通すための電線管を、後部両舷側に煙突をそれぞれ配置してあったところ、本船購入後、サーチライトとスピーカーについては使用することがないので、これらの電線を電線管のところで切断し、水密を保つようパテ詰めしてあったが、甲板全体が経年劣化によって腐食衰耗し、前部左舷側の排水口はいつしか異物が詰まって排水不能となっており、前部左舷側の電線管周辺の甲板には数個の小さな破口が生じていた。 また、操舵室は、前部両舷側とも側壁から約10センチメートル(以下「センチ」という。)離して木製の板で内張りし、側壁と内張りで囲まれた空所の底部にドレン受けを設け、ドレン受け前部に長さ約20セン幅約10センチの開口部を、同後部にドレンホールをそれぞれ設け、前示電線の束を同開口部を経て同室直下の機器室に導いており、機器室には航海計器や無線通信機器の電源装置なとが設置されていたものの、排水口は設けておらず、同室に入った電線束を船尾に向けて天井を這わせ、同室内の途中から機関室内に導いていた。 本船は、A受審人ほか14人が乗り組み、船首4.75メートル船尾6.05メートルの喫水をもって、平成10年4月15日08時00分灯船と運搬船各1隻の3隻で船団を組んで長崎港を発し、対馬西方沖合の漁場で操業を繰り返し行っていたが、同年5月10日05時ごろ臨時検査を受ける目的で、操業を打ち切って同漁場を発し、帰途に就いた。 同日19時00分A受審人は、長崎港内の長崎造船株式会社国分工場にいったん寄せて待機したのち、同月14日正午前、入渠するため同工場を発航し、同日12時ごろ同造船所本社工場岸壁に右舷付けとして移動を終え、その後、同造船所の担当技師の指示で魚倉内の清掃や塗装を行うためと、入渠するにあたっての喫水調整のために冷海水倉や清水タンクなどの排水作業を始め、同日16時ごろ船首4.70メートル船尾4.40メートルの船首トリムとし、船体を左舷方に2度ばかりヒールさせた状態で、喫水とヒールの微調整は入渠直前に行うこととして同作業を終え、越えて18日の入渠に備えて待機した。 これより先、A受審人は、平成5年7月から本船に乗り組み、同9年6月から7月にかけて定期検査を受けた際、コンパス船橋甲板の左舷側煙突周辺が長さ約20センチ幅約10センチにわたり著しく腐食衰耗して破口を生じているのを発見し、直ちに同破口を修理させ、他の箇所も船齢が20年近くとなって経年劣化が著しいので、以後、船体各部については随時点検することとして操業を続けていた。 翌10年2月ごろA受審人は、たまたまコンパス船橋甲板から雨漏りしているのに気付き、同甲板の左舷側付近に新たな破口が生じているのを認めて修繕したが同甲板は塗料で塗り固めてあって、よほどのことがないかぎりテストハンマーなどで叩くわけに行かず、目視点検のみ行い、腐食状況を十分に点検しなかったので、同甲板の前部左舷側の電線管付近が著しく腐食衰耗して破口を生じていることに気付かないまま、今回の臨時検査を受けることになった。 こうして本船は、前示状態で岸壁に係留して待機中、折からの降雨により、コンパス船橋甲板前部左舷側にたまった雨水が前示破口から電線を伝って機器室に浸入し、同年5月16日17時00分長崎港旭町防波堤灯台から真方位175度1,200メートルの地点において、造船所の作業員により、同室内に前部で約10センチ後部で約3センチの深さで雨水がたまっているのが発見された。 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候はほ低潮時であった。 機器室浸水の結果、ジャイロコンパス用高周波発電機のほか無線通信機器の電源装置などに濡損を生じたが、のち同発電機は新替えされ、その他は修理された。
(原因) 本件遭難は、コンパス船橋甲板の点検が不十分で、同甲板の著しい腐食による破口が放置され、同甲板に滞留した雨水が同破口から操舵室を経て同室直下の機器室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、コンパス船橋甲板の腐食状況を十分に点検しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、本船が建造後20年以上経過した経年劣化の著しい船舶であったことに加え、入渠のため造船所の岸壁に接岸待機中であったことに徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |