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1999年(平成11年)

平成10年那審第32号
    件名
交通船アミュー号遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年2月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、小金沢重充
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:アミュー号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船外機が濡損

    原因
船外機の取扱い方についての調査不十分

    主文
本件遭難は、船外機の取扱い方についての調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月5日19時00分
沖縄県八重山列島石垣島川平(かびら)の底地(すくじ)ビーチ沖合
2船 舶の要目
船種船名 交通船アミュー号
登録長 4.00メートル
全長 4.45メートル
幅 1.40メートル
深さ 0.59メートル
機関の種類 4サイクル2シリンダ・電気点火機関
出力 11キロワット
回転数 毎分6,200
3 事実の経過
アミュー号は、平成5年5月に竣工したFRP製プレジャーボートで、当初から船外機が装備されていたが、同8年5月本田技研工業株式会社が製造したBF15A形と称する船外機に換装された。
換装された船外機は、非常停止スイッチが備えられていて、無人操縦による暴走防止として、操縦者の身体にカールコードの一端を取り付け、同コードの他端に付けられたプラスチック製のクリップを同スイッチに取り付け、操縦者が落水などしたときには、クリップが外れて、同スイッチが作動するようになっており、船内に格納された工具箱にはクリップの予備が入れられていた。
A受審人は、平成10年4月5日友人とその家族計11人と潮干狩りを行う目的で、アミュー号を知人から借り受けたが、以前、同船を借用したときとは異なる船外機が備えてあり、使用したことのない機種の船外機であることを認めたが発停方法は同じであるから大丈夫と思い、船舶所有者から聞くなり、取扱説明書を読むなりして船外機の取扱い方について調査しなかったので、同機の非常停止スイッチ及び同スイッチに取り付けられたクリップがあることを知らないままであった。
こうしてA受審人は、船長として乗り組み、同日昼過ぎ友人及びその家族を2ないし3人ずつに分けて、八重山列島石垣島底地ビーチの石垣シーサイドホテル地先の海岸から、石垣御神崎灯台から056度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点の浅瀬に運んだ。
A受審人は、自分も友人等とともに潮干狩りを楽しんだのち、同様にして底地ビーチに友人等を送ることにし、同日18時ごろから6人を2回に分けて運んだあと、3回目の搬送を行うため同浅瀬に戻り、船外機を停止し、友人2人を乗り込ませたとき、1人の手、足など身体の一部がカールコードに触れるなどして、クリップが非常停止スイッチから外れたが、このことに気付かなかった。
2人の乗船を確認したA受審人は、主機を始動しようと何度も始動ボタンを押すなどしたが始動できず、非常停止スイッチが作動していることに気付かず、19時00分前示地点で、航行不能と判断し、4回目に運ぶ予定で、浅瀬に残していた3人を含めた合計6人が船体につかまってアミュー号を押しながら泳ぎ、近くの岸に向かう事態となった。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、海面は穏やかであった。
アミュー号は、6人がつかまって乾舷が低くなった状態で押されるうち、ガンネルを越えて海水が侵入するようになり、間もなく浸水が著しくなって進まなくなった。
A受審人及び友人5人はアミュー号を放置し、20時ごろ岸に泳ぎ着き、海岸沿いに歩いて出発地にあるホテルに戻った。
アミュー号は、先に戻っていた友人がA受審人等6人と同船を捜索するため手配した他のプレジャーボートによって、転覆した状態で発見され、回収された。
遭難の結果、アミュー号は船外機が濡れ損を生じ、後日修理された。

(原因)
本件遭難は、船外機の取扱い方についての調査不十分で、無人操縦による暴走防止として非常停止スイッチに取り付けられたクリップが、乗船者の身体の一部が触れるなどして外れ、同スイッチが作動した状態になり、同機の始動ができなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、知人からアミュー号を借用した場合、使用したことのない機種の船外機が同船に備えられていたのだから、知人から取扱い方を聞くなり、取扱説明書を読むなりして、船外機の取扱い方について調査すべき注意義務があった。しかるに同受審人は、発停方法は同じであるから大丈夫と思い、船外機の取扱い方について調査しなかった職務上の過失により、沖合の浅瀬で、無人操縦による暴走防止として非常停止スイッチに取り付けられたクリップが、乗船者の身体の一部が触れるなどして外れて非常停止スイッチが作動したままになっていることに気付くことができず、航行不能と判断し、同受審人及び5人の友人が泳いでアミュー号を押して岸に向かう事態を招き、浸水により船外機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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