日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年神審第72号
    件名
漁船第十一松丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年2月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、須貝壽榮、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第十一松丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡れ損

    原因
海水吸入弁の取扱い不適切

    主文
本件遭難は、海水吸入弁の取扱いが不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月17日13時00分
高知県宇佐港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一松丸
総トン数 19トン
全長 18.44メートル
幅 4.14メートル
深さ 2.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
第十一松丸は、平成4年8月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する船首尾楼付平甲板型FRP製漁船で、長さが4.81メートルの機関室中央に主機が、主機の両舷前側に発電機用補助機関(以下「補機」という。)が、船首側には冷凍機がそれぞれ据え付けられていた。
また、主機右舷側の床プレート下には、船首側から順に補機冷却海水吸入弁、雑用海水吸入弁及び主機冷却海水吸入弁がそれぞれ船底外板に取り付けられ、その前方に設置された電動横型の雑用ポンプにより甲板上の海水取出し栓、調理場及び便所に送水できるようになっており、同ポンプと雑用海水吸入弁との間には、呼び径50ミリメートルの鋼製吸入管が配管されていた。
A受審人は、同6年1月から機関長として本船に乗り組み、1人で機関の運転管理に携わるほか、漁労長を兼任して操業指揮にも当たっていた。
本船は、A受審人ほか6人が乗り組み、同8年8月初めに基地としている高知県宇佐港を発して三陸沖合で操業し、翌9年3月以降は伊豆半島から四国にかけての近海に移って操業を続けていたところ、雑用ポンプ吸入管のポンプ入口フランジ溶接部付近で腐食が進行し、微小な破孔が生じて海水がわずかに漏れ出る状況となっていた。
その後、本船は、例年どおり休漁期に入ることとなり、同年6月14日に奄美大島東方海域で操業を切り上げ、翌々16日に高知県高知港において水揚げを終えたのち、同日14時30分、宇佐港萩崎防波堤灯台から真方位275度1,700メートルの岸壁で、既に僚船2隻が横付け係留している最沖側に、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって右舷付けで係留した。
A受審人は、他の乗組員が帰宅のため順次下船したのち機関室に降り、同日16時00分補機を停止し、自らも下船することとしたが翌日帰船する予定があり短時間なので大丈夫と思い、各海水吸入弁をいずれも閉弁することなく、同時30分に離船した。
こうして本船は、船内を無人としたまま係留中、雑用ポンプ吸入管の破孔が進行し、開弁されたままになっていた雑用海水吸入弁を経て多量の海水が流入し、翌17日13時00分、帰船したA受審人が、魚倉の洗浄作業を行うため補機を運転しようと機関室入口に来たとき、前示係留地点において主機のシリンダヘッドカバー付近まで浸水していることを発見した。
当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、直ちに船舶所有者に機関室が浸水した旨を電話連絡するとともに、横付けしている僚船の機関長にも助けを求め、同船の給電により移動式排水ポンプを運転して排水作業を行い、約1時間30分経過して水位が低下したところで機関室に入り、前示海水流入箇所を発見して雑用海水吸入弁を閉止し、同日16時00分機関室の排水を終えた。
浸水の結果、本船は、主機、補機、発電機及びに各種電気機器等に濡(ぬ)れ損を生じ、のち定期検査工事のため入渠地へ回航されたうえ、いずれも修理された。

(原因)
本件遭難は、係留を終え船内を無人として離船するにあたり、海水吸入弁の取扱いが不適切で、開弁されたままの雑用海水吸入弁を経て、雑用ポンプ吸入管に生じた腐食破孔から多量の海水が機関室に流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、係留を終え船内を無人として離船する場合、機関室内の海水管に腐食破孔などが発生しても、同室に海水が流入することのないよう、すべての海水吸入弁を閉弁すべき注意義務があった。ところが、同人は、翌日帰船の予定があり短時間なので大丈夫と思い、すべての海水吸入弁を閉弁しなかった職務上の過失により、開弁されたままの雑用海水吸入弁を経て海水管に生じた腐食破孔から機関室浸水を招き、主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION