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1999年(平成11年)

平成11年広審第29号
    件名
漁船栄祥丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、中谷啓二、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:栄祥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機、逆転減速機、両集魚灯用発電機、集魚灯用安定器などがぬれ損

    原因
主機冷却海水管系の点検不十分

    主文
本件遭難は、主機冷却海水管系の点検が不十分で、清水冷却器カバーの防食亜鉛取付けプラグが脱落して多量の海水が機関室に流入したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月25日21時20分
鳥取県赤碕港北北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船栄祥丸
総トン数 17.72トン
登録長 14.03メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 117キロワット
3 事実の経過
栄祥丸は、昭和54年1月に進水した、幅3.35メートル深さ1.33メートルのいか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、甲板下には、船首から順に格納庫、3個の魚倉、生け間、長さ4.73メートルの機関室、床下に集魚灯用安定器を備えた船員室、及び操舵機庫をそれぞれ配置し、甲板上には、機関室囲壁を挟んで船首側に操舵室、船尾側に賄室を備え、操舵室に主機回転計などの計器類、警報装置及び発停用スイッチが組み込まれた主機遠隔操縦装置を設けていた。
機関室は、両舷に3個ずつの燃料油タンク、中央に主機として三菱重工業株式会社が製造した6ZDAC-11型と称する間接冷却式ディーゼル機関を備え、同機の動力取出軸に直結した交流220ボルト定格出力130キロボルトアンペアの集魚灯用発電機、同軸の左舷側にベルト駆動の同220ボルト同出力75キロボルトアンペアの集魚灯用発電機、同出力130キロボルトアンペアの集魚灯用発電機の両舷に3個ずつの集魚灯用安定器、船尾管上方の後部隔壁に沿って4個の蓄電池、同管下方のビルジだめに直流24ボルト駆動の水中ポンプなどを配置していたが、ビルジ高位警報装置を備えていなかった。
主機の冷却海水管系は、船底の海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプにより吸引加圧された海水が、空気冷却器、清水冷却器及び逆転減速機潤滑油冷却器をそれぞれ冷却したのち、左舷側外板にある船外吐出弁から排出されるようになっていた。
また、主機の冷却清水管系は、同機の前部上方に装備した清水タンクから直結の冷却清水ポンプで吸引された清水が、潤滑油冷却器を経て冷却水入口主管に至り、同主管から各シリンダに分流してシリンダライナ、シリンダヘッド及び排気集合管を順に冷却し、一部同タンクに戻るほか、サーモスタットを経て清水冷却器あるいは同ポンプに再び流入しながら循環するようになっていた。
そして、主機の清水冷却器は、清水タンク下にあって、点検、整備などの作業が容易にできるよう鋳鉄製胴体が機関室床面から約70センチメートルの高さで船横方に取り付けられ、胴体内に装着した冷却細管の内側を海水が、外側を清水が流れるうちに熱交換を行うもので、同細管に海水を流通させるため同胴体の両側におわん形鋳鉄製カバー(以下「カバー」という。)を装着しており、左舷側のカバーに異種金属腐食を防止するため棒状の防食亜鉛1個が取り付けられていた。また、防食亜鉛は、主機の運転中、消耗が避けられないため定期的に点検して新品と交換しなければならないものであり、その都度カバーを取り外さなくても済むよう、ねじの呼び径20ミリメートル(以下「ミリ」という。)ピッチ1.5ミリのねじ部及び直径30ミリ厚さ2ミリのフランジ部を設けた鋼製のプラグに防食亜鉛を装着し、左舷側のカバー中央部にあるプラグ孔にねじ込むようになっていた。
A受審人は、平成8年3月に本船を購入したときから船長として乗り組み、機関の保守と運転管理にもあたっていたもので、主機の整備については、毎年4月ごろ上架した際にピストン抜き、吸・排気弁、燃料噴射弁などの開放整備とともに、清水冷却器、排気集合管、逆転減速機潤滑油冷却器などの防食亜鉛の取替えを行い、基地である鳥取県田後港を午後出港して同県沖合の漁場で操業し、翌朝市場の競りに間に合うよう帰港する操業形態をとり、周年、操業を繰り返していた。
ところで、主機の清水冷却器は、同9年4月に修理業者による主機ピストン抜き整備などの際に防食亜鉛の取替えが行われたが、その後出漁回数がやや少なかったことから、翌10年4月に予定していた同整備が延期され、定期的に防食亜鉛の取替えも行われないまま使用されていたところ、防食亜鉛が消耗してその効果がなくなり、ねじ部などの腐食が進行して衰耗したプラグが主機の振動の影響を長期間受けるうちに緩みを生じ、いつしかカバーのプラグ孔から海水が漏洩(ろうえい)し始めた。
同10年9月25日14時ごろ1人で本船に乗り組んだA受審人は、出漁に先立ち、いつものように主機の冷却清水量及び潤滑油量を点検のうえ操舵室で主機を始動し、しばらく暖機を行って出漁することとしたが、それまで機関室のビルジがあまり増加することがなかったので大丈夫と思い、始動後に主機冷却海水管系の点検を十分に行うことなく、そのまま出漁準備を終えたので、清水冷却器カバーのプラグの緩みが次第に進行し、これが脱落して多量の海水が同室に流入するおそれのあることに気付いていなかった。
こうして、本船は、いか一本釣り漁の目的で、船首1.00メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同日14時30分田後港を発し、主機を回転数毎分1,600の全速力前進にかけて漁場に向かい、17時30分ごろ鳥取県赤碕港北北東方沖合の漁場に至り、クラッチを切ってシーアンカーを入れ、主機を回転数毎分1,800に増速のうえ集魚灯用発電機2台を駆動し、A受審人が機関室に赴いて燃料油タンクを切り替え、集魚灯30個及びいか釣り機8台に給電して操業を続けていたところ、かろうじて清水冷却器カバーのプラグ孔に付いていたプラグが脱落し、直結の海水ポンプで加圧された海水がプラグ孔から噴き出して同室の船底に急激にたまり、主機、両集魚灯用発電機、集魚灯用安定器などが浸水するようになり、21時20分赤碕港沖防波堤灯台から真方位029度8.8海里の地点において、異音とともに主機の回転数が低下した。
当時、天候は曇で風力1の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。
操舵室にいたA受審人は、主機の異常及び集魚灯が消えたことに気付き、機関室に急行したところ、同室床上まで流入した海水を主機のフライホイールが激しく巻き上げ、清水冷却器カバーのプラグ孔から海水が勢いよく噴き出しているのを認め、直ちに主機を停止してプラグ孔に木栓を打ち込んで海水の流入を止め、ビルジだめの水中ポンプと魚倉に使用していたもう1台の直流24ボルト駆動の水中ポンプとにより排水を始めたものの、間もなく蓄電池の電力を使い果たして両水中ポンプが停止したことから、近くにいた僚船に救助を求めた。
その結果、本船は、来援した僚船により機関室のビルジを排出したのち田後港に引き付けられ、主機、逆転減速機、両集魚灯用発電機、集魚灯用安定器などがぬれ損したが、のちそれらは修理された。

(原因)
本件遭難は、出漁するにあたり、主機冷却海水管系の点検が不十分で、長期間防食亜鉛の取替えが行われていなかった清水冷却器カバーのプラグに緩みを生じて海水が漏洩したまま主機の運転が続けられ、プラグが脱落して大量の海水が機関室に流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の保守管理にあたる場合、長期間防食亜鉛の取替えを行っていなかった清水冷却器カバーのプラグなどから海水が漏洩しているおそれがあったから、不測の事態が発生することのないよう、始動後に主機冷却海水管系の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、それまで機関室のビルジがあまり増加することがなかったので大丈夫と思い、始動後に主機冷却海水管系の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同カバーのプラグに緩みを生じて海水がプラグ孔から漏洩していることに気付かないまま主機の運転を続け、プラグが脱落して多量の海水の同室への流入を招き、主機、逆転減速機、集魚灯用発電機、集魚灯用安定器などをぬれ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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