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1999年(平成11年)

平成10年函審第72号
    件名
漁船第五十三富丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第五十三富丸船長 海技免状三級海技士(航海)
B 職名:第五十三富丸次席二等航海士兼漁労長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
プロペラ翼1枚脱落、3枚欠損及び曲損、プロペラ軸曲損

    原因
後進の行きあしに対する配慮不十分

    主文
本件遭難は、後進の行きあしに対する配慮が不十分で、根がかりした漁具を船尾より前方に位置させたまま巻き上げを行い、オッターボードがプロペラ翼に接触したことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月8日11時30分
千島列島北部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十三富丸
総トン数 279トン
全長 58.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
3 事実の経過
第五十三富丸(以下「富丸」という。)は、遠洋底びき網漁業に従事する可変ピッチプロペラを装備した鋼製漁船で、A及びB両受審人ほか18人が乗り組み、ロシア人オブザーバーら3人を乗せ、操業を行う目的をもって、船首2.6メートル船尾6,6メートルの喫水で、平成10年5月6日17時00分釧路港を発し、翌々8日11時15分千島列島北部の、北緯48度19.5分東経155度00.5分の地点に至り、オッタートロール漁法による第1回目の操業を開始した。
ところで、富丸における操業は、水深100メートルないし130メートルの等深線に沿って曳(えい)網するもので、漁網の拡張と沈子を兼ねた重量約4トンのオッターボード(以下「オッター」という。)と漁網先端部を連結する手綱などで全長が約100メートルの漁具構成としていたことから、曳網中に漁網が根がかりして、これを外すときは、トロールウインチでオッターに接続している曳網索(以下「ワープ」という。)を巻いて、オッターを船尾端至近の海面付近ないし海面上まで巻き上げねばならず、その際、ワープの巻き込みで後退力が働くので、オッター及び漁網などがプロペラ翼に接触するのを防止するため、オッターが海面付近に近づいたとき、または、船尾部が根がかり地点の真上付近に達する前に、トロールウインチの回転を減じてワープの巻き込みによる後退力を抑え、海潮流による影響などを十分に考慮に入れてプロペラ翼角を適宜調節するなどして、漁具を船尾端より前方に位置させることのないよう留意する必要があった。
B受審人は、第1回目の操業のため自ら操舵操船のもとに投網したあと、針路を等深線に沿うほぼ020度(真方位、以下同じ。)に定め、2ノットばかりの海潮流に抗して約5ノットの対地速力で、ワープの送出を開始し、11時23分ワープが300メートル出たところで送出を終え、機関を回転数毎分420として3.0ノットの対地速力で曳網を開始した。
A受審人は、投網を開始した直後から操舵室後部でトロールウインチの操作に当たり、ワープの送出を終了し、曳網を開始したので、オブザーバーから要請されていた魚体測定板を準備するため操舵室を離れ、倉庫に赴いた。
11時28分B受審人は、行きあしが止まり、ワープが送出し始めたことから漁網が根がかりしたことを認め、オッターを船尾ギャロースまで巻き上げて根がかりを外したのち再びワープを繰り出して曳網するつもりで、ほぼ020度を向首させたままプロペラ翼角を前進1.5度、トロールウインチをほぼ高速回転の回転数毎分30強にしてワープの巻き込みを開始し、同時30分少し前ワープが残り50メートルとなったとき、船体が海潮流やワープの巻き込みによる後退力で1.0ノットの対地速力で後進していることを知った。しかし、同人は、これまで後進の行きあしがある状態でワープを巻いてもプロペラ翼にオッターを接触させたことがなかったので大丈夫と思い、後進行きあしに対して十分に配慮することなく、同ウインチの回転速度を減じた上でプロペラ翼角を前進側に更に上げるなどして漁具が船尾端前方に位置するのを防止する措置をとらずにワープの巻き込みを続けた。
富丸は、同じプロペラ翼角及びトロールウインチの回転速度でワープの巻き込みを続けていたところ、船尾端が根がかりした漁具の真上より後方まで後退して漁具が船尾端より前方に位置し、11時30分北緯48度20分東経155度01分の地点において、右舷側のオッターがプロペラ翼に接触した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は穏やかで、付近水域には約2ノットの海潮流があった。
接触の結果、富丸は、プロペラ翼が1枚脱落したほか他の3枚に欠損及び曲損並びにプロペラ軸に曲損を生じ、操業を中止して微速力で釧路港に引き返し、損傷部はのち修理された。

(原因)
本件遭難は、千島列島北部の漁場において、オッタートロール漁法により海潮流に抗した針路で曳網中、漁網が根がかりしてこれを外すため漁具の巻き上げを行う際、後進の行きあしに対する配慮が不十分で、漁具先端部のオッターが船尾部に近づいたとき、漁具を船尾端より前方に位置させたまま巻き上げが行われ、オッターがプロペラ翼に接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、千島列島北部の漁場において、海潮流に抗してオッタートロール漁法による底引き網を曳網中、漁網が根がかりしてこれを外すため漁具の巻き上げを行う場合、オッターをプロペラ翼に接触させないよう、オッターが海面近くになった際、後進の行きあしに対して十分に配慮すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで後進の行きあしを持った状態でワープを巻いてもプロペラ翼にオッターを接触させたことがなかったので大丈夫と思い、後進の行きあしに対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、船尾端が漁具の真上より後方に位置する状態でオッターの巻き上げが続けられ、オッターがプロペラ翼に接触する事態を招き、同翼の1枚を脱落させ、他の3枚に欠損及び曲損並びにプロペラ軸に曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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