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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月21日12時30分 静岡県焼津港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第6長宝丸 総トン数 18.26トン 登録長 16.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 478キロワット 3 事実の経過 第6長宝丸(以下「長宝丸」という。)は、昭和50年1月に進水した、中型まき網漁業付属のFRP製漁船で、船体中央から後部にかけて機関室を設け、同室後方中央に主機が、主機前部に発電機及び同機駆動原動機(以下「補機」という。)が据え付けられていた。 補機は、ヤンマーディーゼル株式会社製造の4CHL-TN型と称する定格出力45キロワットの過給機付ディーゼル機関で、平成5年に換装されており、補機の冷却海水は左舷側の船底吸入弁から同機直結の冷却海水ポンプに吸引加圧され、清水及び潤滑油の各冷却器を通ったあと機関室右舷側で船底からほぼ1.5メートルの高さにある船外吐出口から排出されるようになっていた。 補機の冷却海水ポンプは、ゴムインペラ式で、通常吐出圧力が0.6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)であるが、吐出側が締切りの状態では3.2キロまで上昇するもので、同ポンプ出口と清水冷却器入口をつなぐ管は、内径38.1ミリメートル厚さ6.0ミリメートルのゴム継手で、同ゴム継手は製造時の耐圧が10キロ以上のものであるが、経年劣化でゴムが硬化して表面に微細な亀(き)裂があると耐圧以下で破裂するおそれがあり、使用条件が2キロ以下とされていた。 A受審人は、平成9年1月から船長として乗り組み、機関部の責任者を兼ねていたもので、補機の冷却海水ポンプ吐出側のゴム継手が経年劣化で硬化し表面に微細な亀裂が生じていたが、このことに気付かないまま、夕刻出港して翌朝帰港し、水揚げが終了するまで補機を連続運転とする操業に従事し、操業中1ないし2回機関室内を見回って漏水の有無を点検し、ビルジが留っていればビルジポンプを運転して排出していた。 長宝丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、駿河湾内で操業ののち、水揚げの目的で、平成10年9月21日06時10分船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水で、ほぼ高潮時に静岡県焼津港に入港して右舷付けで係留した。 A受審人は、着岸後漁獲物の水揚げを終え、10時30分ごろ機関室で主機を停止したのち、補機を運転したまま操舵室で仮眠をとることとしたが、潮位が変化して補機冷却海水船外吐出口がゴム製の岸壁防舷材で塞がれるおそれがあったところ、主機停止時機関室内に異状がなかったので大丈夫と思い、同吐出口を点検しなかった。 こうして長宝丸は、補機を運転したまま係留中、潮位が変化するとともに、折からの風を受けて船体が岸壁防舷材に密着し、同機の冷却海水船外吐出口が岸壁防舷材で塞がれて吐出圧力が上昇し、前示ゴム継手が破裂して海水が噴出し、機関室が浸水し始め、12時30分焼津港小川外港東防波堤東灯台から真方位214度230メートルの係留地点において、冠水した発電機が短絡焼損して電源を喪失した。 当時、天候は雨で風力4の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 A受審人は、冷房機が停止したことに気付いて機関室に赴いたところ、機関室が船底から約1メートルまで浸水しているのを認め、隣に係留中の僚船のポンプにて海水を排出した。 浸水の結果、本船は発電機焼損のほか、主機、補機、モーター類などにぬれ損を生じたがのち修理され、機関室にビルジ警報装置が備えられた。
(原因) 本件遭難は、係留中補機を運転したまま機関室を無人とする際、補機冷却海水船外吐出口の点検が不十分で、潮位が変化して同吐出口が岸壁防舷材で塞がれて吐出圧力が上昇し、経年劣化でゴムが硬化して表面に微細な亀裂が生じていた海水管系統のゴム継手が破裂し、海水が噴出して機関室が浸水したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、係留中補機を運転したまま機関室を無人とする場合、潮位が変化して補機冷却海水船外吐出口が塞がれることがないか、同吐出口を点検すべき注意義務があった。しかし同受審人は、機関室を点検して異状がなかったので大丈夫と思い、同吐出口を点検しなかった職務上の過失により、同吐出口が岸壁防舷材で塞がれて海水管系統のゴム継手が破裂し、発電機焼損のほか、主機、補機、モーター類などにぬれ損を生じさせるに至った。 |