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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月8日15時30分ごろ 伊豆大島波浮港南方 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三八幡丸 総トン数 197トン 登録長 40.30メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 第三八幡丸は、平成4年2月に進水した、航行区域が近海区域のバウスラスターを備えた船尾船橋型貨物船で、船首チェーンロッカー下の船底部中央に、バウスラスターを直接駆動する、連続定格出力84キロワット同回転数毎分2,600の、逆転減速機付き4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関などを設置したスラスター室が設けられ、船橋より同機関をスラスター制御盤で遠隔始動のうえ、バウスラスターが操作されるようになっていた。 スラスター室は、長さ約2.5メートル幅約2メートルの広さで、バウスラスター駆動機関やその機側計器盤のほかに雑用水ポンプなどが設置され、呼び径50ミリメートルの海水管が、シーチェストから同ポンプを経て甲板洗浄や、ボースンストア内の甲板機用油圧ポンプ冷却水として配管され、ビルジはポータブル水中ポンプで排出するようになっていたが、同室にはビルジ警報装置が装備されていなかった。 本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、往航は京浜港から小笠原諸島へ重油や貨物などの、復航は同諸島及び途中経由の伊豆七島から京浜港へ活魚などの輸送に従事し、計画回転数毎分385の主機を航行中は毎分370回転の全速力に運転し、船首楼などにやや振動ある速力約11ノットで運航され、雑用水ポンプを出入港時のほか活魚槽への給水などで頻繁に運転するため、ボースンストア内の始動器盤で遠隔発停できるよう、同ポンプの管系各弁は常時解放のままとされていた。 ところでスラスター室は、船首楼のボースンストアから垂直はしごで出入りし、主に機関長が出港後の航海中、またA受審人も気が付いたときにそれぞれ点検していたところ、雑用水ポンプ吸入側エルボ管の溶接部が、腐食または製造時の溶け込み不足のため、部分的にいつしか衰耗した状態になっていたが、A受審人は、今までに海水管系の漏水がなかったので大丈夫と思い、同管系を十分に点検するよう機関長ら乗組員に指示せず、溶接部が漏水するおそれのある状況であったことに気付かなかった。 こうして本船は、同8年12月3日京浜港東京区を出港後機関長が、また同月6日小笠原諸島父島を出港後A受審人が、それぞれスラスター室を点検した際には雑用水ポンプ海水管の漏水がなく、その後前示衰耗部にピンホールを生じ漏水するようになったが、これが分からないまま復航の途、翌々8日伊豆大島波浮港に寄港することとなり、船首及び船尾にそれぞれ乗組員二人を配置のうえ同受審人が一人で操船に当たり、同15時10分バウスラスター駆動機関を始動して入港準備中、同時30分ごろ竜王埼灯台から真方位17.4度5.8海里の地点において、漏水による浸水のため同室が冠水し、同機関が停止してバウスラスターが操作不能となった。 当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、海上は波が高かった。 本船は、A受審人がスラスター室の浸水を認めてバウスラスターを使用せずに入港作業を行い、同月末までそのまま運航のうえ、濡れ損したバウスラスター駆動機関の換装のほか、雑用水ポンプなどの電動機巻換えなどの修理とともに同室にビルジ警報装置が設置された。
(原因) 本件遭難は、スラスター室雑用水ポンプの管系各弁を常時開放して運航する際、同管系に対する点検が不十分で、同ポンプ吸入管が溶接部の衰耗によりピンホールを生じて漏水し、同室が浸水したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、スラスター室雑用水ポンプの管系各弁を常時開放して運航する場合、同ポンプなどの管系の漏水を早期に発見できるよう、同管系の点検を十分に行うよう指示しなかったことは、本件発生の原因となるが、当時の点検模様及び海水管の衰耗状況に徴し、職務上の過失とするまでもない。 |