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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月10日17時20分ごろ 長崎県伊王島南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートさよ丸 総トン数 3.38トン 登録長 8.17メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
121キロワット 回転数 毎分2,520 3 事実の経過 さよ丸は、昭和52年12月に進水し、船体中央からやや後方に操舵室を設けた一層甲板型のFRP製遊漁船であったが、同60年8月からA受審人の所有するところとなり、平成6年12月に主機を換装し、同9年8月の定期検査時に航行区域を限定沿海区域と定めたプレジャーボートとなり、以後、月に数回同人が船長として乗り組み、長崎港近辺の海域で釣りを行っていた。 ところで、本船の操舵装置は、単板舵を手動油圧方式によって操作するもので、操舵室の後部に油圧タンクと油圧ポンプが付設した舵輪を、船尾甲板上に回転型の油圧シリンダ、長さ約30センチメートル(以下「センチ」という。)幅約10センチ厚さ約1.5センチの鉄板製の舵柄等からなる操舵機をそれぞれ配置し、舵輪と油圧シリンダとの間が銅管と高圧ゴムホースによって接続され、銅管の一部が船尾甲板上に設けた中空円筒形のビットを貫通し、操舵機全体に箱をかぶせてあったところ、経年により、舵柄が著しく腐食するとともに、銅管のビット貫通部がビットとこすれて微少な破口を生じ、ビット内部に作動油がにじみ出るようになった。 A受審人は、操舵装置の作動油の減少に気付き、再三にわたって漏油箇所を調査したが、油圧シリンダ側に格別の異状を認めなかったことから、他の部分についても大したことはあるまいと思い、同装置の点検を十分に行うことなく、舵柄の経年による著しい腐食に気付かず、また、漏油箇所も発見できないままであった。 こうして本船は、A受審人が独りで乗り組み、魚釣りの目的で友人ら4人を同乗させ、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成10年5月10日07時ごろ長崎港第2区にある戸町船だまりを発し、同時40分ごろ伊王島南西方3海里ばかり沖合の釣り場に至って漂泊し、適時移動しながら釣りを行ったのち、15時45分ごろ帰途に就き、雨が降り出した中を増速中、16時ごろ舵柄が舵柱の付け根近くで折損した。 A受審人は、直ちに主機を停止して調査した結果、舵柄の折損を認めるとともに、応急操舵用の手動舵取棒が舵柱に連結されていなかったので、応急措置として針金で同棒を舵柱にくくり付け、低速で航行を再開したものの、風波が高まって舵板にかかる力が増大し、針金切断のおそれを感じ、17時20分ごろ伊王島灯台から真方位221度2海里ばかりの地点において、関係先に操舵不能となった旨を伝えて救助を依頼した。 当時、海上警報と波浪注意報が発表されており、天候は雨で風力3の北寄りの風が吹いていたが、突風が吹き、海上はかなり波があった。 本船は、17時50分ごろ巡視船の来援を受け、同船に引かれて発航地に戻り、後日、舵柄と銅管のビット貫通部を新替えした。
(原因) 本件遭難は、手動油圧方式の操舵装置に対する点検が不十分で、舵柄の経年による著しい腐食が放置され、航行中、舵柄が折損して操舵不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、手動油圧方式の操舵装置の漏油箇所を調査する場合、同装置は20年以上も使用しているのであるから、漏油箇所のみならず、腐食・衰耗箇所も見逃すことのないよう、同装置を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、油圧シリンダ側に格別の異状を認めなかったことから、他の部分についても大したことはあるまいと思い、同装置を十分に点検しなかった職務上の過失により、舵柄の経年による著しい腐食を放置する事態を招き、航行中に舵柄が折損して操舵不能を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |