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1999年(平成11年)

平成9年神審第62号
    件名
漁船第八直喜丸遭難事件〔簡易〕

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年3月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第八直喜丸機関長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
補機駆動発電機を焼損、主機駆動発電機、バッテリー充電用発電機、魚倉循環海水ポンプ電動機、雑用海水ポンプ電動機、バッテリー等が濡れ損、主機クランク室の潤滑油に海水が混入

    原因
発電機原動機の海水ポンプ吐出管の点検不十分

    主文
本件遭難は、発電機原動機の冷却海水ポンプ吐出管の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月2日03時00分
和歌山県勝浦港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八直喜丸
総トン数 11トン
登録長 11.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
3 事実の経過
第八直喜丸(以下「直喜丸」という。)は、小型第1種の従業制限を有し、まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、機関室中央に主機を据え付け、船内電源用発電機として、いずれも容量20キロボルトアンペアの、主機の前部動力取出軸で駆動されるものと、原動機(以下「補機」という。)駆動のものとをそれぞれ1台装備していた。
補機は、三菱重工業株式会社が製造した、定格出力18キロワット同回転数毎分1,800の4DQ50MP型間接冷却式ディーゼルで、機関室前部左舷側の共通機関台上に発電機を船首側にして据え付けられていた。
補機の冷却は、直結の冷却清水ポンプにより、清水冷却器を兼ねた冷却清水タンク(容量8.5リットル)から吸引された清水が、各部を冷却したのち同タンクに戻って循環する一方、直結の冷却海水ポンプにより、船底の海水吸入弁を経て吸引された海水が潤滑油冷却器及び清水冷却器を通って船外排出口から排出されるようになっていた。
補機冷却海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)は、ヤブスコ式回転ポンプで、冷却清水タンク下方の機関後部右舷側に、軸心を前後方向として横置きに設置されていた。また、同ポンプの吸入及び吐出管は、いずれも呼び径25ミリメートルの配管用炭素鋼製で、それぞれ先端にねじの呼びPT1のテーパねじを切り、ポンプケーシング円周側面の取付け座に、左舷側斜め下方から吸入管が、右舷側斜め上方から吐出管が、それぞれ直接ねじ込んで取り付けられていた。
直喜丸は、A受審人以外に、同人の兄が船長として、ほか父、叔父及びいとこが乗り組み、四国沖から房総半島沖にかけての海域で、船体及び機関の整備を行う8月を除き、周年操業に従事していたもので、約2週間出漁しては水揚げ港に寄港し、仕込み等のため3日間前後停泊する日程を繰り返していた。
A受審人は、乗船以来、機関の管理を全て任され、1人で運転及び保守整備に当たり、補機駆動の発電機については、専ら停泊中に運転し、また海水ポンプについては、平成7年8月ごろにゴム製インペラ及びケーシングの保護亜鉛を新替えして運転を繰り返すうち、いつしか同ポンプ吐出管のケーシングねじ込み部分が腐食して海水がわずかに漏洩(ろうえい)し始め、付け根付近が錆(さび)に覆われる状態となった。
直喜丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首0.7メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、水揚げの目的で、同8年11月28日15時ごろ和歌山県勝浦港に入港して築地埠頭に着岸し、翌29日午前中に水揚げを終え、出漁準備等を整えるためそのまま停泊を続けることとし、11時ごろ同受審人が、補機を始動のうえ、発電機を主機駆動のものから切り替えた。
A受審人は、その後の停泊中、機関の整備作業等を行う午前中以外は機関室を無人とし、作業終了の12時前後と就寝前の22時30分前後に同室内を点検するようにしていたが、補機を運転したまま機関室を無人とするにあたり、海水ポンプ吐出管のケーシング付け根付近が錆で覆われていることに気付いていたものの、急に破孔が生じることはあるまいと思い、ドライバーで錆を落としてみるなど、同吐拙管を入念に点検することなく、補機周辺を一瞥(いちべつ)し、ビルジが溜まっていないことを確認するだけであったことから、このころには同管の腐食が進行し、ねじ込み部の肉厚が著しく減少していることに気付かなかった。
こうして直喜丸は、勝浦港において、同年12月1日22時30分ごろA受審人が機関室を一巡したのち、補機を運転したまま同室を無人として停泊中、海水ポンプ吐出管の腐食部分に破孔が生じ、海水が噴出して破孔が徐々に拡大し、同管がポンプから外れて多量の海水が機関室に浸入するようになり、翌2日03時00分紀伊勝浦港ケタノ鼻灯台から真方位329度890メートルの停泊地点で、運転中の発電機に海水が浸入して船内電源が喪失した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、自室で就寝中、補機の運転音が変化したことから目覚め、照明が消えていることに気付いて機関室に降り、同室床プレート上約40センチメートルまで浸水し、海水ポンプ吐出側から海水が噴出していることを認め、補機を停止して海水吸入弁を開弁したのち、他の乗組員とともに、隣に停泊していた僚船の助けを得て排水に取り掛かり、1時間余りのちに完了した。
機関室浸水の結果、直喜丸は、補機駆動発電機を焼損し、主機駆動発電機、バッテリー充電用発電機、魚倉循環海水ポンプ電動機、雑用海水ポンプ電動機、バッテリー等が濡れ損したほか、主機クランク室の潤滑油に海水が混入し、のち海水ポンプの吸入及び吐出管とともに、いずれも修理された。

(原因)
本件遭難は、勝浦港において、補機を運転のうえ機関室を無人として停泊するにあたり、海水ポンプ吐出管の点検が不十分で、腐食により肉厚の減少していた同管が修理されないまま運転が続けられ、生じた破孔が拡大して同管が外れ、多量の海水が機関室内に浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、勝浦港において、補機を運転のうえ機関室を無人として停泊するにあたり、海水ポンプ吐出管の腐食しやすい箇所に錆が発生していることを認めた場合、内部が腐食して肉厚が減少しているおそれがあったから、破孔が生じて同室が浸水することのないよう、ドライバーで錆を落としてみるなど、同吐出管を入念に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、急に破孔が生じることはあるまいと思い、海水ポンプ吐出管を入念に点検しなかった職務上の過失により、同吐出管の肉厚が腐食により著しく減少していることに気付かないまま運転を続け、同管に破孔が生じて機関室浸水を招き、主機、補機、発電機、各ポンプ電動機等が焼損や濡れ損するに至った。






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