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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月9日16時50分 茨城県鹿島港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船グリーン パイン 総トン数 5,402トン 全長 97.13メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 2,581キロワット 船種船名 巡視船ひたち 貨物船ケイヨウ 総トン数
525.75トン 6,684トン 全長 67.80メートル
137.22メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 2,206キロワット
6,707キロワット 3 事実の経過 グリーン パイン(以下「グ」号という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A指定海難関係人ほか日本船員1人及びフィリピン船員15人が乗り組み、平成7年11月9日08時00分鹿児島県港港外に至り、一時錨泊待機の後、11時00分鹿島港南公共ふ頭D岸壁(以下、岸壁の名称については、「鹿島港南公共ふ頭」を省略する。)に船首を000度(真方位、以下同じ。)に向けて出船左舷係留し、ベニヤ約500トンを残して同港における揚荷を済ませ、船首2.82メートル船尾5.50メートルの喫水をもって、宮城県石巻港に向かうため、16時39分出港準備にかかった。 ところで、鹿島港南公共ふ頭は、港口から内港に至る中央水路を経て、南北に分岐した、長さ約2,900メートル幅約300メートルの南水路南部奥にあって、西岸南部隅から同水路出入口に向けて約900メートルの部分及び西岸隅から南岸東側隅まで約370メートルのL字型部岸壁が割り当てられていて、西岸部分は水路の出入口に近い方からアルファベット順にFまでの符号が、南岸部分にはG、Hの各符号が付され、A及びB岸壁が水路に沿って長さ約370メートル、同岸壁線からほぼ30度西側に曲折してC及びD岸壁が長さ約260メートル、E及びF岸壁が再び水路に沿って長さ約260メートルとなっていた。 A指定海難関係人は、船橋に三等航海士及び操舵手を、船首に一等航海士、甲板長及び甲板員2人を、並びに船尾に必要要員をそれぞれ就けて離岸操船に当たり、自船の前方約40メートル隔ててC岸壁にひたちが、同船の前方約40メートル隔ててB岸壁にケイヨウがそれぞれ左舷係留している状況のもと、16時45分全ての係留索を解放し、着岸時に投下した右舷錨鎖6節の方向を一等航海士に報告させながら適宜機関を使用して錨鎖の巻き込みを開始したところ、錨位がほぼひたちの船首部沖付近であったことから岸壁線に対して斜め前方に前進する状況でその巻き込みを続け、同時49分少し前ひたちの右舷側を約60メートル離して自船の船首がひたちの船首と並んだとき、一等航海士から「アンカーイズアウェイ」と報告を受けた。 A指定海難関係人は、ひたちがB岸壁に回し着けしており、錨を使用していることが考えられる状況で、前進行きあしをつけることとしたが、一等航海士の報告を錨が異常なく水面に揚がった状態、いわゆるクリアーアンカーの状態と思い、絡み錨、いわゆるフォールアンカーになっていないことを確かめずに、16時49分機関を半速力前進にかけたところ、ひたちの錨鎖が大きな音をたてるとともに激しく振動したのを認め、急いで機関後進としたが、効なく、水中にあった自船の錨がひたちの錨鎖に絡み、16時50分南公共ふ頭C岸壁前面の水域において、グ号は残存行きあしでひたちを引きずり、同船の係留索を切断させるとともに、航行不能となった。 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 グ号はひたちを引きずったまま前進し、16時52分グ号の船首がケイヨウの船尾部に並んだころ、ひたちの船首がケイヨウの船尾部に、次いで、同時55分ごろグ号の左舷船首部がケイヨウの船尾部にそれぞれ接触した。 また、ひたちは、船首2.15メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、船首を000度に向け、右舷錨鎖3節を延出し、船首尾索各1本、前後部スプリング索各1本の状態でC岸壁に左舷係留中、及びケイヨウは、船首3.78メートル船尾5.86メートルの喫水をもって、船首を330度に向け、船首尾索各3本、前部スプリング索、同ブレスト索、後部スプリング索各1本の状態でB岸壁に左舷係留中、前示のとおり、接触が生じた。 この結果、グ号に損傷はなかったが、ひたちは係留索3本を切断したほか船首部ジャッキレール、中央部舷梯などが曲損し、ケイヨウは船尾部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、のちいずれも修理された。
(原因) 本件遭難は、鹿島港において、グ号が南公共ふ頭D岸壁から離岸出港するに当たり、係留索を解放後、着岸時に投下した錨を巻き揚げる際、揚錨状況の確認が不十分で、水中にあった自船の錨を係留中のひたちの錨鎖に絡ませたことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為) A指定海難関係人は、鹿島港南公共ふ頭D岸壁から離岸出港するに当たり、錨を使用していた状態で係留索を解放後、前進行きあしをつけるための機関を操作する際、錨が異常なく水面に揚がったかどうかを確かめず、機関を半速力前進に操作して前進行きあしをつけ、まだ水中にあった自船の錨を係留中のひたちの錨鎖に絡ませ、自船は航行不能になったうえ、ひたち及び自船をその前方に係留していたケイヨウに接触させ、ひたち、ケイヨウの両船にそれぞれ損傷を与えたことは、本件発生の原因となる。 A指定海難関係人に対しては、本件後、揚錨作業について船首錨作業要員と緊密な連絡をとって錨の状況確認を行い、安全運航に努めていることに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |