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1999年(平成11年)

平成11年広審第31号
    件名
貨物船第一春洋丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年12月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一、中谷啓二、横須賀勇一
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第一春洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第一春洋丸甲板長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底外板全面に破口を伴う凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月3日01時50分
備讃瀬戸東部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一春洋丸
総トン数 197トン
全長 55.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
3 事実の経過
第一春洋丸(以下「春洋丸」という。)は、主に、神戸港と瀬戸内海諸港間の穀物の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、マイロ650トンを積載し、船首2.55メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成10年3月2日20時00分神戸港を発し、香川県坂出港に向かった。
A受審人は、船橋当直体制をB受審人との4時間交代の単独輪番2直制に定め、自らは、出航後の港内操船に引き続き船橋当直に従事するほか、狭水道通過時等における操船指揮に当たっていた。
他方、同船の荷役中の作業内容は、積地である神戸港では、陸上のローダーで積荷を行うことから、A及びB両受審人が、荷役開始から終了までの約2時間甲板上で共に積荷の指揮監督を、機関長はバラストの排水作業に従事することとなっており、日曜祭日は不荷役のほか平日の積荷作業終了時間も午前0時までとなっていた。

こうしてA受審人は、発航後、明石海峡を西行して播磨灘に入り、23時00分播磨灘航路第5号灯浮標を航過したころ昇橋してきたB受審人と船橋当直を交代することとした。
ところで、B受審人は、A受審人の実兄にあたり、同船の船主でもあって、両人は春洋丸の新造以来約13年間乗船を共にしており、平素、船橋当直中に居眠りをしたこともなく、同船の就労時間からしても睡眠は十分にとれる状況にあったことから、A受審人は、当直の交代にあたり、まさかB受審人が居眠りするとは思わず、格別、居眠り防止に対する指示を行わずに針路、速力を告げただけで降橋して休息した。
翌3日01時00分B受審人は、地蔵埼灯台から084度(真方位、以下同じ。)5.3海里の地点に達したとき、針路を備讃瀬戸東航路の東口に向首する259度に定めて自動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて進行した。

B受審人は、当時、足の具合が不調で立った姿勢のまま長時間当直を続けることがつらかったので、操舵輪後方のいすに腰かけ足下に電気ストーブを置き、窓を閉め切った状態で暖をとりながら船橋当直に従事した。
B受審人は、周辺海域を見渡したところ支障となる他船が見当たらず、当分の間、同一針路のまま進行することになって気を許して船橋当直にあたるうち、01時15分地蔵埼灯台から089度2.8海里の地点に達し、このころ右舷正横約0.5海里のところに香川県小福部、大福部両島の島影を認めた辺りから眠気を感じたが、この程度の眠気なら、なんとか我慢できると思い、他の乗組員と2人で船橋当直にあたるなど、居眠り運航の防止措置をとらずに続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
01時35分B受審人は、地蔵埼灯台から218度0.8海里の地点に達し、備讃瀬戸東航路の東口に差し掛かったとき同航路に沿って右転することとなったが、依然、居眠りしていたことから、このことに気付かず、その後も居眠り運航のまま香川県高島に向首して進行中、01時50分突然衝撃を受け、春洋丸は、地蔵埼灯台から249度3.2海里の、高島の北東端に原針路、原速力のまま乗り揚げた。

当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は高潮時であった。
A受審人は、乗揚の衝撃により昇橋して事後の措置にあたった。
乗揚の結果、船底外板全面に破口を伴う凹損を生じ、サルベージ船の来援により離礁し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、単独で船橋当直にあたり、播磨灘を備讃瀬戸東航路の東口に向けて西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、高島北東端に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独で船橋当直にあたり、播磨灘を備讃瀬戸東航路の東口に向けて西行中、眠気を感じた場合、居眠り運航とならないよう、他の乗組員と2人で船橋当直にあたるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、この程度の眠気ならなんとか我慢できると思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、高島に向首進行して乗揚を招き、春洋丸の船底外板全面に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






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