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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月18日10時25分 島根県隠岐諸島島後 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八富丸 総トン数 19トン 全長 19.0メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
190 3 事実の経過 第八富丸(以下「富丸」という。)は、船体のほぼ中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、いか一本釣りの目的で、船首1.0メートル船尾2.2メートルの喫水をもって平成9年12月16日07時00分鳥取県境港を発し、島根県隠岐諸島北方の漁場に向かった。 A受審人は、17時ごろ漁場に着いた後、適宜操業を行い、翌々18日05時ごろいか約8トンを漁獲したところで操業を中止し、同時30分隠岐諸島の島後北方約50海里の地点で、発航時とほぼ同一喫水となって帰途についた。 A受審人は、発航後島後東岸の黒島埼灯台の約1.5海里東方沖合を航過して南下することとしたが、同灯台の東方約700メートルにかけては、多数の干出岩が点在して拡延しており、同人はこの付近を幾度か航行したことがあって、波高の高い時は、周辺海域が波立ち、変色していることが多かったことから、これら険礁地の存在については十分な認識があった。 こうしてA受審人は、その後、GPSの表示する進路に従って南下を続け、09時50分ごろ黒島埼灯台の北北東約6海里の地点に達したころ6海里レンジに設定したレーダー画面上で、前路の同灯台から東方約2.5海里の海域にかけて多数の船舶が点在しているのを探知した。 10時00分A受審人は、黒島埼灯台から023度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点に達したとき、これら点在する漁船の最西端付近と同灯台の間の海域を抜けることとし、針路を193度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で進行した。 10時15分A受審人は、黒島埼灯台から034度1.8海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1.5海里の、同灯台の東方0.8海里のところに前示漁船群のうちの最西端に位置する1隻の漁船を視認し、これと同灯台のほぼ中央に向けて右転することとし、針路を209度に転じることとなったが、転針するにあたり、目測で転針してもいずれ険礁地を視認し、無難に替わすことができるものと思い、レーダーにより離岸距離を測定するなど、その後船位の確認を十分に行うことなく続航し、このとき黒島埼灯台の東方に拡延する険礁地に向首進行していることに気付かなかった。 A受審人は、その後も船位の確認を行わないまま続航中、10時25分突然衝撃を受け、富丸は、黒島埼灯台から079度500メートルの、水深1.8メートルの地点に209度に向首して原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、海面は穏やかで、潮候は下げ潮の末期であった。 乗揚の結果、船底部外板及びキールに損傷を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、黒島埼灯台の東側海域を同灯台に接近して航行中、漁船を替わすため転針する際、船位の確認が不十分で、同灯台の東側に拡延する険礁地に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、黒島埼灯台の東側海域を同灯台に接近して航行中、漁船を替わすため転針する場合、同灯台の東側に拡延する険礁地があったから、これを避けることができるよう、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、転針するにあたり、目測で転針してもいずれ険礁地を視認し、無難に替わすことができると思い、レーダーにより離岸距離を測定するなど、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同険礁地へ向首進行して乗揚を招き、船底部外板及びキールに損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |