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1999年(平成11年)

平成11年横審第100号
    件名
漁船第二十六開運丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年12月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、半間俊士
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:第二十六開運丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
前部船底に亀裂を伴う凹傷、前部船員室及びソナー室内に浸水

    原因
前部船底に亀裂を伴う凹傷、前部船員室及びソナー室内に浸水

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月12日02時10分
犬吠埼北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十六開運丸
総トン数 80トン
全長 37.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 672キロワット
3 事実の経過
第二十六開運丸(以下「開運丸」という。)は、網船1隻、探索船1隻及び運搬船2隻からなる船団の網船としてまき網漁僕に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか漁労長及び甲板部航海当直部員7人を含む23人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年11月10日17時30分宮城県女川漁港を発し、同県金華山沖合の漁場に至って操業を行った。
ところで、開運丸の操業形態は、夕方出港し、本州東岸沖合で1ないし2晩夜間操業をして最寄りの水揚げ港に帰港するもので、操業には全員があたり、日中に漁場移動等で長時間航海する際には甲板部航海当直部員1人と無資格の甲板員2人の合計3人による2時間交替の輪番の航海当直体制とし、その間、A受審人を含めて非番のものは休息をとっていた。

こうしてA受審人は、翌11日01時ごろ2回目の操業を終え、探索しながら魚群が見つかれば操業する予定で南下し、05時ごろ銚子沖合の漁場に向け移動を始めて航海当直体制としたが、小型漁船が多数操業する海域を航行したことから、自身は時々仮眠しながら在橋した。
A受審人は、13時ごろ小型漁船が少なくなったので自室に退いて休息したのち、16時ごろ再び昇橋して探索を始め、操業に掛かれば降橋して甲板作業に携わりながら、翌12日00時30分犬吠埼灯台の南東方17海里付近で4回目の操業を終え、僚船と離れて波崎漁港に向け、帰途についた。
A受審人は、00時40分犬吠埼灯台から146度(真方位、以下同じ。)15.4海里の地点で甲板上の作業を終えて昇橋し、漁労長と交替し入港までの予定で単独の船橋当直につき、針路を330度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ10.5ノットの対地速力で進行した。

A受審人は、30分ほど操舵スタンド後方の椅子に腰掛けて船橋当直にあたっていたところ、操舵室で機関当直中の機関長が居眠りを始め、自身も昼間の漁場移動中に在橋していたことから、睡眠不足となっていて眠気を催したが、あと1時間ほどで入港するので、何とか我慢できるものと思い、船員室で休息中の甲板部航海当直部員を昇橋させて船橋当直を交替するなど居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵室後方にコーヒーを取りに行き、再び椅子に腰掛けてコーヒーを飲んだり、煙草を吸ったりして眠気を払いながら船僑当直を続けた。
01時42分半A受審人は、犬吠埼灯台から135度4.6海里の地点において正船首5.5海里に銚子港東防波堤(以下「防波堤」という。)南東端をレーダーで確認し、同端まで3海里に近付いたら、その東方沖合に向け右転することとし、暖かい操舵室内で、単調な機関の運転音を聞きながら椅子に腰掛けて船橋当直を続けているうちに、いつしか居眠りに陥り、強まってきた北東風によって5度ほど左方に圧流されながら続航した。

01時57分少し前A受審人は、居眠りを続けていたため、転針予定地点で転針することができず、防波堤南側に散在する岩礁群に向けて進行し、02時10分わずか前ふと目覚めてレーダーを監視したところ、防波堤南東端を右舷船首30度1,600メートルに認め、転針予定地点を大幅に過ぎていることに気付き、驚いて右舵一杯としたものの、効なく、02時10分犬吠崎灯台から040度1,500メートルの水面下に没した沖ノ雁股と称する干出岩に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力5の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、前部船底に亀(き)裂を伴う凹傷を生じて前部船員室及びソナー室内に浸水したが、連絡を受けて引き返してきた僚船と搭載艇とに引かれて離礁し、自力で銚子港に入港し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、犬吠埼南東方沖合から茨城県波崎漁港に向け北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、犬吠埼北東方沖合の干出岩に向けて進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、夜間操業を終えて犬吠埼南東方沖合から茨城県波崎漁港に向け北上中、眠気を催した場合、昼間に小型漁船が多数操業する海域を漁場移動する間、在橋していて十分な休息がとれずに睡眠不足となっていたのであるから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、1時間ほどしたら入港するので、それまで何とか我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、その後居眠りに陥り、転針予定地点で転針することができず、犬吠埼北東方沖合の干出岩に向首、進行してこれに乗り揚げ、前部船底に亀裂等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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