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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月22日01時20分 佐賀県加部島 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第十八栄福丸 総トン数 199トン 登録長 54.53メートル 幅 9.60メートル 深さ
5.48メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
625キロワット 3 事実の経過 第十八栄福丸(以下「栄福丸」という。)は、平成4年11月に就航し、主として九州諸港に飼料を輸送する船尾船橋型鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか1人が乗り組み、大豆粕約650トンを載せ、船首2.70メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、同10年1月20日21時神戸港を発し、佐世保港に向かった。 ところで、栄福丸は、就航以来、B海運有限会社の代表取締役であるB受審人及び同人の息子2人並びにこれら3人と姻戚関係があるA受審人の4人が乗り組み、そのうち1人が休暇などで下船した場合は残りの3人で運航しており、B受審人及び同人の息子2人はいずれも航海のみならず機関の海技免状を併有し、B受審人はA受審人以上の乗船経験を有していたが、A受審人が機関の海技免状を持たないことや、B受審人が陸上業務の都合で乗船できないことがあることなどから、A受審人を船長として雇い入れることが多く、当該航海においては、A受審人が船長、B受審人が甲板員、同人の次男が機関長の職務に就き、航海当直については、3人が3時間毎に適宜交替し、それぞれ単独で行っていた。 A受審人は、響灘を西行し、倉良瀬戸を通過したのち、翌21日23時55分灯台瀬灯標から068度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点に達したとき、船橋後部のソファで目覚めたB受審人に船位などの引継ぎを行い、その後同ソファで横になって休息した。 航海当直を引き継いだB受審人は、翌22日00時09分灯台瀬灯標から145度1.0海里の地点に達したとき、針路を248度に定め、機関を全速力前進にかけて対地速力11.5ノットとし、自動操舵により進行し、その後、唐津湾の姫島北方沖合から佐賀県呼子港沖合の小川島周辺にかけて点在する漁船を認め、これらを左右に見ながら続航した。 やがて、B受審人は、小川島南方の平瀬周辺から加部島北方沖合にかけて漁船が密集しているのを認め、01時10分ごろ肥前立石埼灯台から090度1.8海里ばかりの地点に達したとき、予定どおり加部島と加唐島の中間付近に向けて転針しようとしたところ、転針方向には漁船が多数存在するので転針できない状況となったが、漁船の数が比較的少ない臼島や加部島などに接近して航行すれば大丈夫と思い、状況に応じて直ちに停止できるよう、速やかに減速することなく、転針を少し遅らせることとし、同一速力のまま進行した。 こうしてB受審人は、01時11分半肥前立石埼灯台から095度2,750メートルの地点に達したとき、針路を漁船が途切れている辺りに向く283度に転じ、間もなく手動操舵に切り換え、同一の針路、速力のまま船首左右前方に漁船を見ながら続航中、左舷船首前方の漁船が右方に移動しているのに気付き、探照灯を向けて注意を促しても同漁船に反応が見られなかったものの、依然減速しないまま、これを替わすこととし、01時16分半同灯台から078度1,050メートルの地点で左舵一杯として進行した。 01時17分半B受審人は、肥前立石埼灯台から092度620メートルの地点に達したとき、右方に移動する漁船を替わしたので右舵一杯をとり、右回頭しながら加部島に著しく接近する態勢となって続航中、同時19分同灯台から120度280メートルの地点に達して加部島北端付近の陸岸まで50メートルばかりとなったとき、危険を感じて大声をあげながら機関を全速力後進にかけたが、及ばず、01時20分船首が320度を向いたとき、肥前立石埼灯台から110度100メートルの加部島北端付近の岩礁に、4ノットばかりの行きあしをもって乗り揚げた。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、船橋後部ソファで就寝中、B受審人の大声で目覚め、直ちに起き上がって船橋前部に駆け寄ったとき、乗揚の衝撃を感じ、その後、各部を点検して航行可能な状態であるのを確認し、自力で離礁して佐世保港に向かった。 乗揚の結果、船首部から左舷中央部にかけての船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、佐賀県呼子港沖合の加部島と平瀬との間の水道に向けて西行中、漁船が密集している海域に接近した際、減速措置が不十分で、転舵を繰り返して加部島に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、佐賀県呼子港沖合の漁船が密集している加部島と平瀬との間の水道に向けて西行中、進行方向に漁船が存在して予定どおり転針できなくなった場合、状況に応じて直ちに停止できるよう、速やかに減速すべき注意義務があった。しかし、同人は、漁船の数が比較的少ない臼島や加部島などの陸岸に接近して航行すれば大丈夫と思い、全速力前進のままとしていて速やかに減速しなかった職務上の過失により、前路に移動してきた漁船を替わすために転舵を繰り返し、加部島に著しく接近することとなって乗揚を招き、船首部から左舷中央にかけての船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |