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1999年(平成11年)

平成10年門審第110号
    件名
旅客船メックパールナンバー1乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年10月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、清水正男、平井透
    理事官
喜多保

    受審人
    指定海難関係人

    損害
船底キールの船体中央部から船尾にかけて擦過傷

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月18日15時15分
南西諸島奄美大島笠利湾
2 船舶の要目
船種船名 旅客船メックパールナンバー1
総トン数 299.80トン
登録長 33.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
メックパールナンバー1(以下「メ号」という。)は、昭和53年に建造されて瀬戸内海で就航していた旅客船で、A指定海難関係人ほか3人が乗り組み、売船による回航の目的で、船首1.8メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成10年5月15日17時05分広島県尾道糸崎港を発し、フィリピン共和国ザンボアンガ港に向かった。
ところで、A指定海難関係人は、回航のため臨時に雇われて発航の4日前に乗船し、既に備え付けられていた海図を使用して航海計画を立て、目的港に向け発航したが、荒天遭遇時における避泊や予定針路変更の事態に際し、大縮尺の海図や水路誌を備え付けるなどして関係図誌類による水路調査を十分に行っていなかった。


A指定海難関係人は、13時40分ごろ笠利埼灯台から000度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点に至ったとき、奄美大島を通過したあとも低気圧の影響により激しい横揺れが続くことが予想されたことから、同島笠利湾に避泊した経験のある機関長と機関員の助言を頼りに同湾内に避泊することにしたが、これまで自ら同湾に入航の経験もなく、また、大縮尺の笠利湾の海図など関係図誌類を備え付けておらず、所持していた海図第225号(奄美大島付近)には同湾の水深や浅瀬などが記載されていなかったので、同湾の水路状況を確かめる手だてがなかった。

こうして、A指定海難関係人は、14時23分今井埼灯台から117度800メートルの地点に達したとき、機関用意とし、機関長らの助言を得ながら湾内の地勢を見て、針路及び速力を適宜変えて手動操舵により航行し、同時37分竜郷港阿丹埼北東方照射灯(以下「照射灯」という。)から029度1,560メートルの地点で、機関を2.0ノットの極微速力前進に減速し、同時55分竜郷泊地の予定錨地に至ったとき、機関員からその奥にも広い錨泊地があると助言されて更に進入し、15時07分照射灯から170度330メートルの地点において、針路を265度に定め、浅所に向首していることに気付かないまま進行し、同時15分少し前錨を投下しようとして機関を停止したとき、船首前方の水深が浅くなっているのを視認し、左舵一杯を取ったが効なく、15時15分照射灯から230度570メートルの地点において、船首を252度に向けて同浅所に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船底キールの船体中央部から船尾にかけて擦過傷を生じたが、のち自力で離礁した。


(原因)
本件乗揚は、荒天遭遇時に奄美大島笠利湾に避泊するにあたり、水路調査が不十分で、湾奥部の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。


(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、売船による回航の目的で尾道糸崎港からザンボアンガ港に向け発航し、荒天遭遇時に奄美大島笠利湾に避泊するにあたり、大縮尺の海図や水路誌を備え付けるなどして関係図誌類による水路調査を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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