|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月1日19時15分 高知県宿毛湾南部 2 船舶の要目 船種船名
漁船第二十八しんこう丸 総トン数 199トン 全長 46.85メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 第二十八しんこう丸は、活魚運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、高知県沖ノ島沖合の養殖施設で活魚12トンを載せ、平成10年9月1日08時00分同地を発し、大分県津久見湾黒島の養殖施設に至って更に活魚11トンを積み込み、船首2.7メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、同日14時50分同島を発して静岡県焼津港に向かった。 ところで、A受審人は、当日、前任の船長が沖ノ島において急病で下船したため、急遽(きょ)一等航海士から繰り上がって船長職を執ることになったもので、船橋当直を、船長、B指定海難関係人及び甲板員1人による単独4時間制とし、発航操船に引き続き自らが19時までの予定で同当直に就いて豊後水道を南下した。 一方、B指定海難関係人は、発航後魚の状態を確かめるため約10分間活魚倉の見回り作業に従事したのち、船内の食堂で夕食と酒の肴としてかつおのたたきを2人分作り、15時半から非直の機関長と酒を飲み始めた。 B指定海難関係人は、酒が好きでよく飲んでいたが、有限会社R社長の息子でもある前任の船長から酒を慎むよう注意を受けていたことや家庭の事情もあって、1箇月ほど前から飲酒を控えていたところ、当日新鮮なかつおを入手し、酒もあったことから、船橋当直に入る前であったものの、入直後の業務遂行に配慮して飲酒を差し控えることなく、機関長と2人で飲み出したもので、当直のため昇橋するまでの間に1人で約5合の日本酒を飲んでいた。 18時30分A受審人は、当直交替前に船位を確認したところ、鵜来島灯台から347度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点であったので、針路を120度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南流と北北東風によって約6度右方に圧流されながら11.0ノットの対地速力で宿毛湾南部の浅礁や小島が散在する狭隘(あい)な海域に向けて進行した。 18時40分A受審人は、鵜来島灯台から061度1.3海里の地点で次直のB指定海難関係人が昇橋してきたとき、平素から当直交替の時刻より15分ぐらい前に次直者が昇橋してそのまま交替する習慣になっており、同人が年長者であるうえ、前任船長のときから、夜間においても単独船橋当直に当たって宿毛湾南部にある幸島とオシメ鼻の間の幅約500メートルの狭隘な海域を幾度も航行していたので大丈夫と思い、同海域を通過する際に自ら操船の指揮がとれるよう、引き続き在橋することなく、針路が120度でオシメ鼻に向いている旨引き継いだのみで、B指定海難関係人が飲酒していることに気付かないまま、航海日誌の記入を終えた18時45分ごろ降橋した。 単独で船橋当直に就いたB指定海難関係人は、飲酒によって正常な判断が困難な状態で、気分が高揚しており、狭隘な海域も容易に1人で操船して通過できるものと思い、A受審人が降橋したのちレーダーで船首がオシメ鼻を向いていることを確認し、いすに腰を掛けたところ、18時50分ごろ酒の酔いから居眠りに陥った。
当時、天候は曇で風力3の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日没は18時36分であった。 A受審人は、衝撃を感じて乗揚げに気付き、急いで昇橋して事後の措置に当たった。 乗揚の結果、間もなく波浪により機関室船底部に破口を生じて浸水し、のち沈没して全損となった。
(原因)
(受審人等の所為)
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、単独の船橋当直に就いて宿毛湾南部を航行する際、飲酒して当直に従事し、居眠りしたことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |