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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月21日02時00分 茨城県鹿島港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船瑞功丸 総トン数 497トン 全長 75.69メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 瑞功丸は、船尾船橋型の鋼製貨吻船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト約500トンを載せ、船首1.15メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成10年2月20日07時00分福島県小名浜港を発し、茨城県鹿島港に向かった。 ところで、鹿島港は、鹿島灘に面した堀込港で、長さ約3,800メートルの南北に延びる南防波堤が築造され、同防波堤の西側には、これに沿って幅約500メートルの掘り下げ水路があり、同水路と住友金属工業株式会社鹿島製鉄所の護岸(以下「北海浜護岸」という。)との間が錨地となっていたが、同錨地は、北東から北西にかけて外海に開いているため、北寄りの風浪に対する遮蔽(しゃへい)が十分でなく、冬季には、北ないし北東及び西南西ないし西北西の強風が吹き、特に付近を温帯低気圧が通過すると、継続時間は短いものの風速が毎秒20ないし30メートルに達することがあり、錨かきがよくないこともあって、走錨に注意を要するところであった。 A受審人は、船橋当直を自らが8時から12時、甲板員が0時から4時、一等航海士が4時から8時の単独3直体制を採り、発航操船に引き続いて船橋当直に就き、そのまま鹿島港に至ったものの、先船の関係で荷役岸壁に直航することができず、北防波堤北方の錨地において錨泊待機することにしたが、同錨地の錨かきがよくないことを承知していたので、平成9年12月に瑞功丸の船長として乗船して以来、鹿島港に入港するに際し、荷役待ちなどのため同錨地で錨泊するときは、通常よりも錨鎖を長めに使用することにしており、また、B受審人も、同港で錨泊した経験から、同錨地の錨かきがよくないことを承知していた。 A受審人は、B受審人らを船首配置に就けて投錨準備に当たらせ、北防波堤北方の錨地に向けて進行したところ、同錨地には既に十数隻の錨泊船がいたので、これらと距離を隔てることのできる錨位を探し、11時40分鹿島港北防波堤灯台から346度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点の水深8メートルのところに、船首を南に向けて左舷錨を投下し、後進しながら9節保有している錨鎖のうち4節伸出して単錨泊した。 17時00分ごろA受審人は、船舶電話で代理店と連絡をとり、翌21日06時00分に荷役岸壁に着岸するよう指示を受け、このとき気象情報を入手していなかったものの、天候は曇で海上は平穏であり、投錨地点の水深からして錨鎖は2節使用すればよいところ、4節使用しているので、守錨当直を配置しなくても大丈夫と思い、降橋して自室で休息をとった。 そのころ、関東の南東海上には、前線を伴った低気圧が発達しながら東北東に進んでおり、銚子地方気象台から20日18時35分に強風・波浪注意報が発表され、更に20時40分には暴風・波浪警報に切り替えられるなど、海上は大時化となることが予想されたが、A受審人は、日ごろはNHKのラジオ放送で気象通報を受信し、自ら天気図を作成することがあったものの、同日16時と22時の気象通報を受信しておらず、瑞功丸に搭載していたナブテックス受信機やVHF無線電話による気象情報を収集していなかったばかりか、自室のテレビはチャンネルの設定を行っていなかったため、テレビ放送による気象情報も収集することができず、このため警報・注意報が発表され、風が強くなることを知り得ず、また、B受審人は、錨泊後にテレビ放送で気象情報を入手し、低気圧が接近して風が強くなることを知ったが、このことをA受審人に報告しなかった。 翌21日01時00分ごろB受審人は、コーヒーを飲むために昇橋したところ、間もなく小用のため目が覚めたA受審人も昇橋し、A、B両受審人は、波浪の状況からして風向が南から北東に変わり、風速も毎秒10メートル前後に達していることを知り、船首の振れ具合から走錨はしていないと思ったものの、念のためレーダーにより左舷側の北海兵護岸との距離を測定するなどして走錨していないことを確認した。そして、A受審人は、風はこれ以上強くならないであろうし、あと4時間ほとで抜錨して荷役岸壁に向かうので、このままの状態で錨泊を続けても走錨することはないものと判断し、ナブテックス受信機、VHF無線電話又はテレビ放送によるなり、最寄りの気象官署に問い合わせるなどして気象情報を収集しなかったので、低気圧の接近に伴って風が一段と強くなることを知り得ず、守錨当直を配置するなり、機関用意としておくなど適切な走錨防止措置をとらずに、B受審人に降橋して休息をとるよう促し、01時15分ごろ自らも降僑して自室で休息をとった。 一方、B受審人は、今後低気圧の接近に伴って風が一段と強くなり、このままの状態で錨泊を続ければ、走錨のおそれがあることを懸念していたが、A受審人も気象情報を収集しており、しかも昇橋して自ら気象海象の現況を観察したことでもあり、同人は今後風が一段と強くなることを知った上で守錨当直の必要性などについて判断したものと思い、同人に対して入手した気象情報を報告せずに、同人に促されるまま降橋して自室で休息をとった。 こうして、A受審人は、気象情報の収集を行わず、適切な走錨防止措置をとらないまま錨泊を続けるうち、やがて寒冷前線が通過したことにより、突風を伴った北北東風が急速に強まって風速が毎秒15メートルを超えるようになり、時折最大瞬間風速が毎秒20メートルにも達する突風が吹き、波高も約4メートルに達するようになったが、守錨当直を配置していなかったので、このことに気付かず、01時50分突風を伴う強風を受けて錨がひけ、瑞功丸は風下の北海浜護岸に向けて圧流され始めた。 間もなくB受審人は、自室で休息中に船体の上下動が横揺れに変わったことに気付き、自室の窓から周囲の状況を確認したところ、付近の錨泊船との位置関係が変わったことで走錨していることに気付き、急いでA受審人に報告した。 報告を受けたA受審人は、昇橋してレーダーにより船位を確認したところ、既に走錨して南南西方に圧流され、北海浜護岸に130メートルのところまで接近しており、直ちに機関用意を令して抜錨準備に取りかかったが、波浪により船体が大きく上下動して船底に衝撃を受け、間もなく発電機が停止して電源を喪失し、どうすることもできないまま圧流が続き、02時00分鹿島港北防波堤灯台から303度530メートルの地点において、瑞功丸は、その左舷側が北海浜護岸に打ち寄せられ、間もなく船首を同護岸とほぼ平行な330度に向け、同護岸の外周に設置された捨石及び消波ブロックに乗り揚げた。 当時、天候は雨で、最大瞬間風速が毎秒20メートルにも達する突風を伴う風力7の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 A受審人は、直ちに海上保安庁に通報して救助を要請した。 乗揚の結果、瑞功丸は、船底部に破口を生じて機関室及び貨物倉内に浸水し、のち起重機船により引き降ろされたが廃船となり、乗組員は海上保安庁のヘリコプターで全員無事救助され、流出した燃料油は回収された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、暴風・波浪警報が発表された状況下、鹿島港内において錨泊中、気象情報の収集が不十分で、突風を伴う強風によって走錨し、北海兵護岸に向けて圧流されたことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が気象情報の収集を行わなかったことと、一等航海士が入手した気象情報を船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、暴風・波浪警報が発表された状況下、鹿島港内において錨泊中、風向が変化し、風が強くなったのを認めた場合、同錨地は錨かきがよくないことを知っていたのであるから、守錨当直の配置や機関の準備など走錨防止措置の必要性について適切な判断ができるよう、ナブテックス受信機、VHF無線電話又はテレビ放送によるなり、最寄りの気象官署に問い合わせるなどして気象情報を十分に収集すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨鎖を長めに使用しており、風はこれ以上強くならないであろうし、あと4時間ほどで抜錨して荷役岸壁に向かうので、このままの状態で錨泊を続けても走錨することはないと思い、気象情報を十分に収集しなかった職務上の過失により、暴風・波浪警報が発表され、前線を伴った低気圧の通過によって風が一段と強くなることを知り得ず、適切な走錨防止措置がとれないまま錨泊を続け、突風を伴った強風によって錨がひけ、北海浜護岸に圧流されて乗り揚げるに至り、船底部に破口を生じて機関室などに浸水し、全損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、暴風・波浪警報が発表された状況下、鹿島港内において錨泊中、テレビ放送の気象情報により風が一段と強くなることを知った場合、A受審人が走錨防止措置の必要性について適切な判断ができるよう、同人に対し収集した気象情報を報告すべき注意義務があった。しかしながら、B受審人は、A受審人も気象情報を収集しており、しかも昇橋して自ら気象海象の現況を観察したのであるから、今後風が一段と強くなることを知っており、その上で走錨防止措置の必要性について判断したものと思い、収集した気象情報を報告しなかった職務上の過失により、A受審人が適切な走錨防止措置をとることができないまま錨泊を続け、突風を伴った強風によって錨がひけ、北海兵護岸に圧流されて乗り揚げるに至り、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |