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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月14日00時15分 宮城県石巻漁港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十二八興丸 総トン数 65トン 全長 31.45メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
698キロワット 3 事実の経過 第五十二八興丸(以下「八興丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成11年1月12日03時00分基地である宮城県石巻漁港を発し、福島県相馬市沖合の漁場に向かい、同日06時00分に到着して操業を開始し、9回曳網して約3.5トンのたら類を漁獲したのち、翌13日21時40分金華山灯台から164度(真方位、以下同じ。)16.8海里の地点で操業を終えて発進し、基地に向けて帰途に就いた。 石巻漁港は、宮城県が管理する特定第3種漁港(第3種漁港のうち水産業の振興上特に重要な漁港で政令で定めるものをいう。)で、石巻湾の北浜にある旧北上川河口の東側に東西2泊地に分けて築造され、西側泊地は水揚げ後の漁船船溜まりとして整備中であり、東側泊地が漁港として供用されている。同漁港は、東、西両防波堤と西防波堤東端の南方約330メートルにへの字型に屈曲した東西の長さ約600メートルの防波堤(以下「南沖防波堤」という。)とで囲まれており、南沖防波堤が高潮時に水没することがあるため、同防波堤の南側に消波ブロックが積み上げられ、その存在を示すための灯浮標が同防波堤の北方周辺に東西両端及び中央を示す3箇所、及び同南方周辺の東西両端各1箇所と中央2箇所とにそれぞれ設置されていた。また、東防波堤の北東方約900メートルには、2灯一線001.3度の石巻漁港導灯があり、同導灯の南方約1.7海里には、同漁港港口に向かう水路の入口を示す石巻漁港沖第1号及び同第2号両灯浮標(以下「両灯浮標」という。)が設置されていた。 ところで、A受審人は、発航後漁場に着くまで甲板員とともに船橋当直に就き、1曳網約4時間の操業を始めてからは漁撈長が操舵室で操船に当たり、船長を含む他の乗組員は投揚網作業及び揚網後の漁獲物整理に1ないし2時間従事する以外の時間は休息することができたことから、各曳網中に2ないし3時間の断続的な休息を取っていた。 23時04分A受審人は、金華山灯台から222度3.6海里の地点に差し掛かったとき、最後の曳網の漁獲物整理を終えて甲板長とともに昇橋し、漁場発進後漁撈長に委ねていた船橋当直を交代して2人で同当直に就き、牡鹿半島南岸と網地島、田代島との間の水道を西行したのち、同時42分半二鬼城埼灯台から030度0.8海里の地点において、針路を305度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力で進行した。 A受審人は、23時58分甲板長が水揚げ準備のため降橋したのち単独で引き続き船橋当直に就き、翌14日00時03分渡波尾埼灯台から194度1.7海里の地点に達したとき、いつものとおり両灯浮標間の中央に向けて344度に転針し、間もなく同灯浮標間に至ったら石巻漁港導灯に向けて転針し、南沖防波堤を替わしてからさらに石巻漁港港口に向けて転針するつもりで、立ったままレーダーの操作盤上にひじを突き、前路の見張りに当たって続航した。 A受審人は、両灯浮標に近づくにつれ、折から海上も平穏で視界も良く、1日おきに基地への入出港を繰り返していて通航に慣れた海域でもあったことから、的確にその後の入港予定針路に転じることができるよう気を引き締めて船位の確認に努めるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、依然としてレーダーの操作盤上にひじを突いたまま進行するうち、断続的に休息が取れてはいたものの、いつしか居眠りに陥った。 こうして、八興丸は、00時11分少し前両灯浮標の間に至って石巻漁港導灯に向けての転針予定地点に達したが、A受審人が居眠りをしていてこのことに気づかず、転針が行われないまま南沖防波堤に向首して続航中、ふと目覚めた同人が前方至近に見たことのない光景が迫っていることに気づき、急いで機関を全速力後進にかけたが間に合わず、00時15分石巻漁港西防波堤灯台から180度360メートルの地点において、原針路のまま約6ノットの速力で、南沖防波堤の消波ブロックに乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。 乗揚の結果、球状船首に亀裂を伴う損傷を生じ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、基地である宮城県石巻漁港において、福島県相馬市沖合の漁場から帰航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、同漁港西防波堤の南方にある南沖防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、操業を終えて基地である石巻漁港に帰航する際、相当直の甲板長が水揚げ準備のために降橋したのち単独で引き続き船橋当直に就き、同漁港港口に向かう水路の入口を示す両灯浮標間の中央に向けて進行する場合、的確にその後の入港予定針路に転じることができるよう気を引き締めて船位の確認に努めるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、通航に慣れた海域で気が緩み、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って予定の転針を行わず、南沖防波堤に向首進行して消波ブロックヘの乗揚を招き、球状船首に亀裂損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |