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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月29日04時25分 北海道厚岸湾大黒島 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十五勝運丸 総トン数 4.9トン 登録長 11.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
80 3 事実の経過 第十五勝運丸(以下「勝運丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、平成10年9月28日14時30分北海道厚岸港を発し、厚岸湾口の大黒島南南東方22海里ばかり沖合の漁場に至って操業し、さんま約5トンを漁獲したのち操業を打ち切り、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、翌29日02時00分厚岸灯台から159度(真方位、以下同じ。)22海里の漁場を発進し、帰途に就いた。 ところで、A受審人は、同年7月22日にさんま漁は解禁となって以来不漁続きであったため、操業に必要な2ないし3人の甲板員を雇い入れずに、妻を甲板員として乗り組ませ、2人で操業に従事していたところ、9月下旬になって急に漁模様がよくなってきたものの、甲板員の手配がつかなかったので、そのまま2人で毎日14時半ごろ出漁し、漁場往復航海の船橋当直を1人で行い、漁場で徹夜の操業に従事し、翌朝06時ごろ入港して水揚げと出漁準備などを行い、その日の14時半ごろ再び出漁するという航海を連続して行っていたので、疲労が蓄積し、睡眠不足の状態となっていた。 A受審人は、発進時から操舵室左舷側前部に置いた踏み台に腰を掛け、1人で船橋当直に就いていたところ、29日03時00分ごろ徹夜の連続操業による疲労の蓄積と睡眠不足により眠気を覚えるようになったが、操舵室の窓を開けて風に当たっていれば居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして2人で当直するなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、踏み台に腰を掛け、左横の窓と正面の窓を開けたまま、風に当たりながら船橋当直を続けた。 A受審人は、同日03時06分厚岸灯台から158.5度12海里の地点に達したとき、針路を同灯台を0.6海里ばかり右に見る336度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの東方に流れる潮流により右方に4度圧流されながら、9.1ノットの対地速力で進行した。 定針後、A受審人は、なおも強まる眠気に耐えていたが、甲板員を起こさずに当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、勝運丸は、居眠り運航となり、大黒島の南岸に向かって転針が行われないまま続航中、04時25分厚岸灯台から097度300メートルの地点において大黒島南岸の暗岩に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風が無く、潮候は上げ潮の初期で、東方への弱い潮流があった。 乗揚の結果、勝運丸は船首部及び機関室船底外板にそれぞれ大破口及び機器類に濡れ損を生じ、クレーン船によって厚岸港に引き付けられたが、廃船処分された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、北海道厚岸湾口の大黒島南南東方沖合の漁場から厚岸港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、大黒島南岸の暗岩に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、北海道厚岸湾口の大黒島南南東方沖合の漁場から厚岸港に向け1人で船橋当直に就いて帰航中、連続した夜間操業による疲労の蓄積と睡眠不足により眠気を覚えた場合、そのまま1人で当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったから、休息中の甲板員を起こして2人で当直するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、窓を開けて風に当たっていれば居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして2人で当直するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、眠気を覚えたまま踏み台に腰を掛け、船橋当直を続けて居眠りに陥り、大黒島南岸の暗岩に向かって進行して乗揚を招き、船首部及び機関室船底外板にそれぞれ大破口及び機器類に濡れ損を生じさせ、廃船処分させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |