|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月18日10時35分 沖縄県与那原湾 2 船舶の要目 船種船名 引船第八淡共
はしけ山弘1003 総トン数 19トン 763トン 全長 45.0メートル 登録長
11.94メートル 幅 5.20メートル
16.0メートル 深さ 2.08メートル
3.0メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 367キロワット 3 事実の経過 山弘1003(以下「山弘」という。)は、土砂運搬作業に従事する非自航の鋼製はしけであり、作業員3人が乗り組み、沖縄県中城湾港西原与那原地区の沖合に錨泊している土砂運搬船から土砂を瀬取りする目的で、A受審人が単独で粟り組んだ第八淡共に曳(えい)航され、船首尾とも0.5メートルの等喫水をもって、平成10年2月17日18時00分同地区揚荷岸壁を発し、沖合の土砂運搬船に向かった。 ところで、西原与那原地区は、港湾建設計画の方針に基づいて工事が進められ、すでに築造された防波堤の内側で土地造成及び施設の整備中のところ、本件当時山弘のほか2隻のはしけにより、沖合に錨泊していた土砂運搬船から防波堤内側の揚荷岸壁への土砂の運搬が行われており、A受審人が作業責任者として携わっていた。 また、A受審人は、早朝からはしけ3隻の曳航をそれぞれ1回繰り返し、正午前の天気情報を見て、強風波浪注意報が継続され、波も高く風も強い状態が翌日まで続くことを承知し、やや時(し)化気味のなか、更にはしけ2隻の曳航をそれぞれ1回行い、その日の最後として山弘の曳航を行うこととして前示のとおり離岸したものであった。 A受審人は、離岸後、更に風が強くなり時化模様となったことから、当日の瀬取り作業を中止し、不規則なうねりによる衝撃を受けやすい外洋で錨泊するには適当でない径24ミリメートルのワイヤロープを錨索に使用していた山弘を停泊させることにしたが、2錨泊にすれば防波堤外の外洋でも大丈夫と思い、波浪が遮蔽(へい)される防波堤内に泊地を選定することなく、作業再開時に都合のよい土砂運搬船の近くの錨地に向け曳航を続けた。 18時30分A受審人は、金武中城港馬天北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から346度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、山弘の錨索を船尾両舷からそれぞれ150メートル延出して2錨泊とし、作業員を自船に移乗させ、錨地の南方1海里ばかりの馬天港に帰った。 山弘は、無人のまま錨泊していたところ、夜半から翌18日にかけての東方からの強風と波浪とにより大きく動揺し、破断力を越えた荷重を受けるうち、両舷の錨索が切断して西方へ圧流され、同日10時35分北防波堤灯台から330度1.5海里の地点において、浅礁に乗り揚げた。 当時、天候は雨で風力7の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 A受審人は、朝から時化ていたので瀬取り作業を行わず、第八淡共で待機していたところ、10時30分知人から山弘が異状である旨の電話連絡を受け、急ぎ自動車で乗揚地点付近に赴き、浅礁に乗り揚げた山弘を見て事後の措置に当たった。 乗揚の結果、船底外板に擦過傷を生じ、天候が回復したのち救援船により引き下ろされた。
(原因) 本件乗揚は、時化模様となった沖縄県与那原湾において、停泊するにあたり、泊地の選定が不適切で、強風と波浪とにより、錨索に使用していたワイヤロープが切断し、浅礁へ圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、時化模様となった与那原湾において、作業責任者として非自航のはしけを停泊させる場合、同船の錨索にワイヤロープを使用していたのであるから、強風と波浪とにより破断力を越える荷重を受けないよう、波浪が遮蔽される防波堤内に泊地を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、2錨泊にすれば防波堤外でも大丈夫と思い、防波堤内に泊地を選定しなかった職務上の過失により、錨索が切断し、圧流されて浅礁への乗揚を招き、船底に擦過損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |