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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月25日10時40分 沖縄県竹富島南西方 2 船舶の要目 船種船名
旅客船ニューはてるま 総トン数 19トン 全長 24.65メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,132キロワット 3 事実の経過 ニューはてるま(以下「はてるま」という。)は、航行区域を沿海区域(限定)とする軽合金製旅客船で、合資会社Rが船舶所有者から借り受け、沖縄県石垣港と同県波照間漁港との間を所要時間1時間で1日3往復する定期航路に従事しており、平成10年3月25日1便目の復航として、A、B両受審人が乗り組み、旅客16人を乗せ、船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、09時50分波照間漁港を発し、石垣港へ向かった。 A受審人は、往航時に引き続いて自ら操舵操船に当たっていたところ、雇入れされたばかりで同日はてるまに初めて乗り組んだB受審人から操舵したい旨の申し出があり、会社から同人が他社で高速の小型旅客船の船長として長年乗り組んでいた経験者であると聞かされていたこともあり、10時33分大原航路第10号立標(以下、立標名については「大原航路」を省略する。)から248度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点で、同人に操舵操船を任せることにしたが、特に伝えるまでもないと思い、自船の運動性能について十分な説明を行わないまま交替し、船橋右舷側の操縦レバーの前で在橋を続けた。 ところで、竹富島南西側付近水域には浅礁が多数存在し、航路標識として第2号立標第4号立標、第5号立標及び第8号立標が設置されており、竹富島西方の小浜島小浜港と石垣港との間を航行する船舶は第4号立標の北側を通航し、大原航路(通称)を航行する船舶は主に同立標の南側を通航するようにしており、同立標付近は、これら船舶との間で互いに接近する分岐点となっていた。 また、B受審人は、他社で高速の小型旅客船の船長として乗船し、小浜、石垣両港間の航路に従事していたこともあったことから、前示水域の水路状況及び第4号立標の西方100メートルばかりにある浅礁について十分承知していた。 操舵操船に当たったB受審人は、大原航路を北上し、10時39分ごろ第4号立標の南西方700メートルばかりにある第5号立標を航過するころ、小浜港を発航したと思われる他船を初認し、同時39分少し過ぎ第5号立標から326度200メートルの地点に達したとき、航行経験のある第4号立標の北側を通航することとし、A受審人の了解を得て針路を048度に定め、機関を全速力前進にかけ、27.0ノットの対地速力で進行した。 10時40分少し前B受審人は、第4号立標から270度230メートルの地点に達したとき、前示の他船が左舷前方200メートルばかりになり、同船との接近距離に余裕をもたせることにしたが、減速するなど適切な操船を行うことなく、今からでも第4号立標西方の浅礁を左方に替わせるものと思い、右舵一杯として右転を開始した。 A受審人は、B受審人が突然転舵したことを知り、自船の運動性能では浅礁を左方に替わせないことから、直ちに機関停止、引き続いて後進としたが、間に合わず、10時40分第4号立標から270度100メートルの地点において、はてるまは、135度に向いたころわずかな前進行きあしで浅礁に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 乗揚の結果、両舷のプロペラとプロペラシャフトに曲損を、船底外板に擦過傷をそれぞれ生じ、遊漁船により引き降ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、沖縄県竹富島南西方の浅礁が散在する水域を北上中、他船との接近距離に余裕を持たせるにあたり、操船が不適切で、大角度の転針を行い、浅礁に著しく接近したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が、自船に雇入れされたばかりの甲板員に操舵操船を任せる際、運動性能について十分な説明をしなかったことと、同甲板員が、他船との接近距離に余裕を持たせる際、適切な操船を行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) B受審人は、竹富島南西方の水域を北上中、左舷船首方に前路を横切って東行する態勢の他船を認め、同船との接近距離に余裕を持たせる場合、右舷前方に浅礁があったのであるから、減速するなど適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舵一杯で浅礁を左方に替わせるものと思い、適切な操船を行わなかっ職務上の過失により、右転中、浅礁への乗揚を招き、両舷のプロペラ及びプロペラシャフトに曲損等を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人が、雇入れされたばかりの甲板員に自船の運動性能について十分な説明をしないまま操舵操船を任せたことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、操舵操船中の甲板員がA受審人と同じ海技免状を受有して他社の高速小型旅客船での船長経験もあり、また、他船との接近模様が緊迫する状況でなかったが、同甲板員が突然同受審人の予期していなかった大角度の転舵を行ったこと及び同受審人が直ちに減速措置をとったことに徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |