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1999年(平成11年)

平成10那審第36号
    件名
旅客船ニューはてるま乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:ニューはてるま船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:サザンクロス5号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
はてるま…右舷のプロペラ、プロペラ軸及び舵に損傷

    原因
はてるま…操船不適切(進行波に対処する適切な操船)
サザンクロス…操船不適切(航走中発生する進行波の影響)

    主文
本件乗揚は、ニューはてるまが、サザンクロス5号の進行波に対処する適切な操船を行わなかったことによって発生したものである。
サザンクロス5号が、進行波のニューはてるまへの影響について十分に配慮しなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時時刻及び場所
平成10年1月20日08時48分
沖縄県八重山列島竹富島南水路
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ニューはてるま 旅客船サザンクロス5号
総トン数 19トン 19トン
全長 24.65メートル 26.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,132キロワット 1,529キロワット
3 事実の経過
ニューはてるま(以下「はてるま」という。)は、機関2基及びプロペラ軸2軸を備え、航行区域を沿海区域(限定)とする最大搭載人員82人の軽合金製旅客船で、合資会社Rが船舶所有者から借り受けて、沖縄県石垣港と同県波照間漁港との間で1日3往復の定期運航を行っていたものであるが、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、旅客2人を乗せ、船首0.60メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、平成10年1月20日08時40分その日の第1便として定時に石垣港を発し、波照間漁港に向かった。
A受審人は、発航時から操舵操船に当たり、08時46分少し前竹富島東方立標南東側50メートルの地点に達したとき、針路を竹富島南水路第1号立標(以下、竹富島南水路の立標の名称については「竹富島南水路」を省略する。)と第2号立標との間に向く244度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、27.0ノットの対地速力で、いつものとおり竹富島南水路及びこれに続く大原航路を経由することとして進行した。
ところで、竹富島南水路は、竹富島南側のさんご礁地帯にあり、航路標識として第1号、第2号、第4号、第5号及び第6号の各立標が設置されており、同水路の一部である第4号立標の北東側は、はてるま程度の小型船舶の航行のために掘られた長さ280メートル幅80メートルの狭い水域となっていた。
08時46分半少し過ぎA受審人は、第1号立標と第2号立標との間に達したとき、狭い水域を航行すべく針路を第4号立標を正船首少し右に見る236度に転じ、同時47分半少し過ぎ狭い水域にさしかかり、第4号立標から058度430メートルの地点に達したとき、左舷に船間距離10メートルで自船を追い抜く状況のサザンクロス5号(以下「サザンクロス」という。)を初めて認めた。
A受審人は、洋上で頻繁に出会うことのあったサザンクロスが自船よりも10ノット以上も速く航走すること、またその際高く、強い八の字状の進行波を次々に作り出すことを知っており、このとき狭い水域でしかも至近距離で追い抜かれる状況であったことから、同船の進行波を受けて操船に支障を来すおそれがあったが、進行波を受けることはあっても大丈夫と思い、進行波を受ける時間を極力短くする、あるいは影響を緩和するため、速やかに、かつ大幅に減速するという進行波に対処する適切な操船を行うことなく同速力のまま続航した。
間もなくA受審人は、狭い水域に入り、サザンクロスの船尾が船首に並ぶようになったとき、同船の進行波を受け始めて船首が右に向くので左舵とするとともに機関の回転を落として速力を20.0ノットに減じたが、その後次々に寄せてくる進行波を受けて右方のさんご礁の浅所に接近させられる状況のところ、08時48分少し前危険を感じて機関を両舷とも中立としたうえ後進にかけたが、08時48分第4号立標から045度120メートルの地点において、225度を向いたとき、狭い水域北側のさんご礁の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、サザンクロスは、機関2基及びプロペラ軸2軸を備え、航行区域を沿海区域(限定)する最大搭載人員92人の軽合金製旅客船で、石垣港と沖縄県西表島の仲間港との間の定期運航に従事していたところ、B受審人ほか1人が乗り組み、旅客8人を乗せ、船首0.20メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、同日08時43分その日の第1便として定時よりもやや遅れて石垣港を発し、仲間港に向かった。
B受審人は、発航時から操舵操船に当たり、08時46分半少し前竹富島東方立標南東側100メートルの地点に達したとき、針路を第1号立標を正船首少し右に見る243度に定め、機関を全速力前進かけ、39.0ノットの対地速力で、いつものとおり竹富島南水路及び大原航路を経由することとし、同様に竹富島南水路に向かうはてるまを右舷前方に見ながら進行した。
08時47分少し前B受審人は、第1号立標を右に見てその至近を通過したとき、第4号立標北東側の狭い水域を航行すべく針路を同立標を正船首少し右に見る238度に転じ、そのころはてるまが右舷船首12度250メートルとなっており、そのままでは両船の速力と位置関係から狭い水域内でわずかな船間距離で追い抜くこととなり、自船の進行波がはてるまに影響を及ぼす状況であったが、影響を及ぼすことはあっても大丈夫と思い、そのことに十分配慮することなく、速力を減じて追い抜きを中止することのないまま同速力で続航した。
08時47分半少し過ぎB受審人は、狭い水域にさしかかり、第4号立標から061度430メートルの地点で、船間距離10メートルではてるまに並び、そのまま進行し、間もなく狭い水域に入り、はてるまを追い抜いたとき、自船の進行波がはてるまに影響を及ぼしていることに気付かずに進行し、その後大原航路を経て予定どおり仲間港に入った。
B受審人は、石垣港に帰ったとき、第4号立標付近におけるはてるまの乗揚を知った。
乗揚の結果、はてるまは、自力で離礁して石垣港に引き返したが、いずれも右舷のプロペラ、プロペラ軸及び舵に損傷を生じ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、はてるまが、沖縄県八重山列島竹富島南水路を西行中、第4号立標北東側の狭い水域にさしかかり、左舷至近に追い抜く状況の高速力のサザンクロスを認めた際、同船の進行波を受ける時間を極力短くする、あるいは影響を緩和するため、速やかに、かつ大幅に減速するという進行波に対処する適切な操船を行わず、進行波の影響を受けて狭い水域北側のさんご礁の浅所に著しく接近したことによって発生したものである。
サザンクロスが、はてるまを右舷前方に見ながら高速力で竹富島南水路を西行中、第4号立標北東側の狭い水域内で同船を追い抜く状況であった際、航走中発生する進行波のはてるまへの影響についての配慮が不十分で、追い抜きを中止しなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
A受審人は、竹富島南水路を西行中、第4号立標化東側の狭い水域にさしかかり、左舷至近に追い抜く状況の高速力のサザンクロスを認めた場合、同船の進行波の影響を受ける時間を極力短くする、あるいは影響を緩和するため、速やかに、かつ大幅に減速するという進行波に対処する適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、進行波を受けることはあっても大丈夫と思い、速やかに、かつ大幅に減速するという進行波に対処する適切な操船を行わなかった職務上の過失により、次々に寄せる進行波を受けて右方のさんご礁の浅所に著しく接近させられ、乗揚を招き、いずれも右舷のプロペラ、プロペラ軸及び舵に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、竹富島南水路を西行中、右舷前方に同航するはてるまを認め、同船を第4号立標北東側の狭い水域内で追い抜く状況であった場合、高速力の自船の進行波がはてるまに影響を及ぼすことについて十分に配慮し、追い抜きを中止すべき注意義務があった。しかるに同人は、進行波が影響を及ぼすことはあっても大丈夫と思い、そのことに十分配慮せず、追い抜きを中止しなかった職務上の過失により、進行波による同船の乗揚を招き、前示損傷を生じさせた。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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