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1999年(平成11年)

平成10年仙審第44号
    件名
貨物船第二十由良丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

供田仁男、高橋昭雄、安藤周二
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第二十由良丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
中央部船底外板に一部亀裂を伴う凹損、二重底内に浸水

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月18日02時00分
愛媛県野忽那東岸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十由良丸
総トン数 199.38トン
全長 53.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
3 事実の経過
第二十由良丸は、名古屋港のほか熊本県富岡港等で積んだガラス原料を京浜港、兵庫県尼崎西宮芦屋港及び福岡県宇島港に輸送する船尾船橋型貨物船で、船長B、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.98メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成8年8月17日11時45分尼崎西宮芦屋港を発し、富岡港に向かった。
B船長は、船橋当直を同人とA受審人とによる単独2直制とし、明石、来島及び関門海峡などの狭水道を自らの当直中に通峡することができるよう、各航海ごとに6時間前後の当直時間帯を適宜決めており、翌18日00時30分ごろ来島海峡航路を出航したのち、安芸灘南部海域の推薦航路線の西側をこれに沿って南下した。
01時00分A受審人は、船橋当直に就くため昇橋し、B船長と雑談するうち、同時16分安芸灘南航路第3号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「安芸灘南航路」の冠称を省略する。)を左舷側に250メートル隔てて航過するのを認めた。
01時20分A受審人は、菊間港防波堤灯台から286度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点で、次の第2号灯浮標が釣島水道に向かう転針地点である旨の説明を受けて当直を交替し、引き継いだまま針路を221度に定め、機関を全速力前進にかけた10.4ノットの対地速力で自動操舵により進行し、同時26分半左舷船首2度3.1海里に同灯浮標の灯火を、次いで同時42分右舷船首6度3.1海里に野忽那島灯台の等明暗白光明3秒暗3秒の灯火と左舷前方に点在する漁船の灯火をそれぞれ視認した。
01時44分A受審人は、第2号灯浮標を左舷側に並航して転針地点に達したとき、左舷前方2.5海里に位置して釣島水道東口を示す第1号灯浮標の等明暗白光明2秒暗2秒の灯火がその周囲の漁船の灯火に紛れて容易に識別できない状況であったが、前方に見えてくる灯火を左舷側に順次航過してゆけばよいものと思い、海図にあたるなりレーダーを見るなりして同水道に向く針路を選定することなく、視認している野忽那島灯台の灯火を左舷側に航過するつもりで針路を230度に転じ、野忽那島に向首したことに気付かずに続航した。
A受審人は、01時56分野忽那島灯台から041度0.7海里の地点に至ってGPSの表示を海図に転記し、船位が推薦航路線から離れていることを知ったものの、進路目標としている灯火が同灯台のものであることに思い至らないまま、針路を同灯火に向く221度に転じて進行中、同時59分半同灯火が自身の眼高よりも高くなったことに疑問を抱いた直後、前方に黒い島影を認め、驚いて操舵を手動に切り替えて左舵一杯としたが及ばず、02時00分頭埼灯台から355度2.4海里の地点において、第二十由良丸は、船首が175度を向いて原速力のまま、野忽那島灯台直下の野忽都島東岸に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。乗揚の結果、中央部船底外板に一部亀裂を伴う凹損を生じ、二重底内に浸水したが、引船の来援を得て離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、安芸灘南部海域を南下中、針路の選定が不適切で、野忽那島に向首して進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、安芸灘南部海域を推薦航路線に沿って南下中、釣島水道に向かう転針地点に達した場合、同水道東口を示す灯浮標の灯火がその周囲の漁船の灯火に紛れて容易に識別できない状況であったから、海図にあたるなりレーダーを見るなりして同水道に向く針路を選定すべき注意義務があった。しかし、同人は、前方に見えてくる灯火を左舷側に順次航過してゆけばよいものと思い、海図にあたるなりレーダーを見るなりして釣島水道に向かう針路を選定しなかった職務上の過失により、視認した野忽那島灯台の灯火を進路目標に進行して野忽那島東岸への乗揚を招き、船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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