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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月3日04時50分 瀬戸内海安芸灘 2 船舶の要目 船種船名
貨物船大宝丸 総トン数 152トン 全長 47.92メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 330キロワット 3 事実の経過 大宝丸は、瀬戸内海各港間の運航に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人が父親である船長Bと2人で乗り組み、鋼材470トンを載せ、船首2.7メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成9年10月2日16時40分兵庫県姫路港を発し、愛媛県松山港に向かった。 ところで、これまで大宝丸の船長職を執っていたA受審人は、同船の機関長が欠員となったため、五級海技士(機関)の免状を有する自分が機関長職を執り、船長経験のある父親に大宝丸の船長職を短期間依頼して同船を運航することにした。 こうして、A受審人は、船橋当直に備え同日20時ごろから就床したもののなかなか寝付かれず、熟睡できないまま、翌3日00時00分の当直交代予定時刻を過ぎた01時30分ごろ、岡山県六島南方付近において、当直中の船長に起こされて船橋当直を引き継ぎ単独で操舵操船に就き、備後灘から宮ノ窪瀬戸を経て安芸灘へと航行した。 04時05分A受審人は、操舵輪前面にある椅子に腰掛けて船橋当直に当たり宮ノ窪瀬戸を航過し、アゴノ鼻灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を広島県斎島に向首する244度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて11.5ノットの対地速力で進行した。 04時10分A受審人は、アゴノ鼻灯台から152度900メートルの地点に達したころ、狭い瀬戸を通り抜け、視界も良く、周囲に船舶が少なかったことから、気が緩み、入直前熟睡できなかったこともあり、眠気を催してきたものの、まさか居眠りすることはないと思い、椅子から立ち上がって外気に当たるなどして、居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に腰掛けたまま続航するうち、いつしか居眠りに陥った。 04時18分A受審人は、予定変針地点である来島海峡航路第2号灯浮標の北方1,600メートルの地点に達したが、居眠り運航となって転針の措置がとられず、斎島に向首進行したまま同時45分、同島に約1海里まで接近したものの、依然居眠り運航となって、同針路のまま続航中、04時50分来島梶取鼻灯台から272度4.6海里の斎島東端に原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は低潮時で乗揚地点付近には1.5ノットの南西流があった。 B船長は、自室で休息中、衝撃を受けて昇橋し、事後の措置に当たった。 乗揚の結果、前部船底外板に凹損及び船首水槽に亀裂をそれぞれ生じ、自力で離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、来島海峡西口付近を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定転針地点を航過し、斎島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、来島海峡西口付近を西行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、椅子から立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、斎島東端に向首進行して乗揚を招き、前部船底外板に凹損及び船首水槽に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |