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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月3日13時15分 京都府保津川 2 船舶の要目 船種船名
遊覧船118号 全長 12.30メートル 3 事実の経過 118号は、京都府亀岡市から京都市西京区嵐山までの保津川を、約1時間40分かけて川下りする、機関を装備しない無甲板のFRP製和船型観光船で、A指定海難関係人ほか4人が乗り組み、乗客26人を乗せ、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、平成10年4月3日12時45分亀岡市の保津橋下流150メートルのところにある乗船場を発し、嵐山の渡月橋上流300メートルの着船場に向かった。 ところで、保津川の川下り観光船は、保津川遊船企業組合に所属し、船首部に長さ3メートル80センチメートル(以下「センチ」という。)の竹ざおを操作する棹(さお)差し、船体中央部付近の左右舷どちらかで長さ2メートル70センチの櫂(かい)を操作する櫂引き及び船尾部で長さ約5メートル70センチの櫓(ろ)を操作する舵取りの3人で運航され、櫂引きが作業に余裕があり、全体を見渡して指揮することができるので、乗組員のうちで作業に最も習熟したものが櫂引きとして船頭になり、全員の指揮に当たることになっていた。そして、上流域が降雨等により、川の水位が平均より1メートル以上高くなったときには運航を中止し、75センチ以上1メートル未満のときは、櫂引きを1人、櫓の浮き上がり等を防ぐための補助員を1人それぞれ増員し、5人で運航に当たることが定められていた。 A指定海難関係人は、前日の4月2日は増水のため運航が中止されていたが、その後徐々に水位が下がり、翌3日06時に計測した際の水位が平均より94センチ高であったので、朝から同僚とともに運航を開始し、午前中に一度川下りを終えていた。 こうして、118号は、A指定海難関係人が右舷中央部少し前に立ち、櫂引きを兼ねて船頭として操船の指揮に当たり、乗客全員を胴の間の船横に設置された台に、3人ないし4人ずつ並んで腰掛けさせて川を下り始めた。 13時05分ごろ118号が、左岸の請田(うけた)神社を通過したころから川幅が狭くなって流れが急になり、間もなく小鮎の滝と称する難所を過ぎ、同時15分少し前、ほぼ南に向かっていた川の流れが急激に蛇行して北上する獅子ケ口瀬と称する難所の入口で、川の中ほどに設けられている長さ約30メートルの導流堤と多数の岩が存在する左岸との間を流れる、幅約6メートルの水路に差し掛かった。 A指定海難関係人は、この水路が左岸の突出した岩で幅が狭まっているうえ、その中央部に大きな沈み岩が存在し、同岩に当たった水流が波となって盛り上がり、その下流は波が逆巻く状態になっており、118号を水路中央部の本流に乗せて下航させると、沈み岩の上を通過したとき、波で持ち上げられた船首が急激に落下して水面に衝突し、水しぶきを乗客に降りかからせることになるので、平素は、水流の中央部を避けて、波立ちの少ない左岸に寄せて航過していた。 ところが、この水路は、増水時には、沈み岩に当たった激流が大きく盛り上がるほか、多数の岩が存在する左岸寄りも、側流が激しくなっており、118号が船体を水路の左方に寄せて航過させると、沈み岩を通過したところで船首が側方に圧流されて左方に寄りすぎるおそれがあった。 しかし、A指定海難関係人は、水路の中央部を通過するよう舵取りや他の乗組員に指示しないまま、いつものとおり、乗客にしぶきがかかるのを防ぐため、波立ちの少ない左岸に接近して下航したところ、118号は沈み岩を通過したところで船首が左方に流れる強い側流に寄せられたうえ、船尾が本流によって右方に流され、棹、櫂及び櫓による船体の立て直しができないまま左岸の岩に向かって圧流され、13時15分嵐山382メートル頂から284度(真方位、以下同じ。)4,000メートルの地点において、時速12キロメートルの速力で、船首をほぼ090度に向けて獅子ケ口瀬付近左岸の岩に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、川の水位は、平均水位より約92センチ高かった。 乗揚の結果、118号は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、船尾を下流に向けて流され、獅子ケ口瀬において舷側から水が打ち込んで水船となり、同瀬を過ぎだ瀞場(とろば)の左岸に着岸し、乗客は救助のため下ってきた他の観光船に収容されて嵐山着船場に向かった。
(原因) 本件乗揚は、雨で増水した京者府保津川を下航中、急流減における操船が不適切で、水路の中央部を進行せず、波立ちの少ない左岸に接近し、船首が左方に流れる強い側流域に入ったうえ、船尾が本流によって右方に流され、船体の立て直しができないまま、左岸の岩に圧流されたことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為) A指定海難関係人が、雨で増水した京都府保津川を下航中、狭あいな湾曲した急流域に差し掛かった際、流れに沿うことができるよう、水路の中央部を進行せず、乗客に多量のしぶきがかかかるのを防ぐため、波立ちの少ない左岸に接近し、船首が左方に流れる強い側流域に入ったうえ、船尾が本流によって右方に流され、船体の立て直しができない状況に陥らせたことは、本件発生の原因となる。 A指定海難関係人に対しては、本件発生後安全運航に心掛けていることに徴し、勧告しない。 |