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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月25日21時43分 瀬戸内海備讃瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第五鉄栄丸 総トン数 199トン 登録長 52.81メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 625キロワット 3 事実の経過 第五鉄栄丸(以下「鉄栄丸」という。)は、主に広島県広島港、愛媛県松山港と神戸港間のコンテナ輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、コンテナ約480トンを載せ、船首2.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成10年2月25日15時30分松山港を発し、神戸港に向かった。 A受審人は、船橋当直体制を航行時間が松山、広島両港間の比較的短時間である場合は、自らが全行程にわたって当直を行うことにしていたが、松山、神戸両港間の航海時間が長時間に及ぶときは、発航後及び入航前の4時間の時間帯を自らが船橋当直に従事し、それ以外の時間帯はB指定海難関係人に行わせることとし、それぞれが単独で船橋当直に従事することに定めていた。 ところで、B指定海難関係人の休息状況は、前日24日の神戸港から広島港への船橋当直を21時ごろ終えたのち休息して就寝したものの、同当直中に多数の船舶を替わして航行したため興奮が覚めずに寝付けが悪く、25日01時ごろ起床して広島港外での投錨作業に従事した後は、03時ごろまでA受審人らと歓談後05時ごろ起床して同港での着岸準備作業等に従事し、09時30分に同港を出航して松山港に向かう航海途上においては甲板作業を、その後着岸後は荷役作業を行い、同港出航後は約4時間の休息をとったものの、休息時間は断続的で、当時は荷動きが良好であったことから、多忙な状況が続き、このことは、A受審人についても同様であった。 こうしてB指定海難関係人は、20時20分二面島灯台の南方約0.5海里の地点に達したころ昇橋して、間もなく備讃瀬戸南航路第1号灯浮標(以下、備讃瀬戸南航路と冠する灯浮標名については号数のみを表示する。)を左舷側に航過し、備讃瀬戸南航路の西口に差し掛かったとき、A受審人から船橋当直を引き継いだ。 A受審人は、船橋当直を交代するにあたり、針路、速力及び船位を告げたものの、B指定海難関係人が幾度も同瀬戸の航行を経験しており、同人が航海当直部員であったことから運航上の指示を格別行うまでもないと思い、居眠り運航の防止措置に関する指示を徹底することなく降橋して休息した。 B指定海難関係人は、その後、操舵を自動として備讃瀬戸南航路を東行し、21時10分ごろ7号、8号両灯浮標に差し掛かったころ前路に数隻の漁船を視認し、操舵を手動に切り替えてこれらを替わし終え、同時18分小瀬居島灯台から243度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点に達したとき、針路を同航路に沿う063度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて0.3ノットの順潮流に乗じ、10.8ノットの対地速力で進行した。 B指定海難関係人は、定針後、前路を見渡したところ、航行に支障となる他船が見当たらず、視界も良く、小瀬居島灯台がほぼ正船首に見えていたことから、当分の間はこのままの針路で航行すればよいものと思い、安心して暖房の効いた船橋後部の壁前面に置かれたいすに腰かけ、壁にもたれかかった姿勢となって見張りに従事中、21時29分小瀬居島灯台から243度2.5海里の地点に達し、10号灯浮標を右舷側に視認したころから眠気を感じたが、居眠りに陥ることはあるまいと思い、いすから立ち上がり、外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、続航するうち、いつしか居眠りに陥った。 21時35分B指定海難関係人は、南備讃瀬戸大橋橋梁下を航過し、備讃瀬戸東航路に向け左転することとなったが、居眠りしてこのことに気付かず、香川県小瀬居島西端の陸岸に向首して続航中、鉄栄丸は、21時43分小瀬居島灯台から248度250メートルの同島西岸に原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には0.3ノットの東流があった。 A受審人は、自室で休息中、衝撃で目覚めて昇橋し、事後の措置に当たった。 乗揚の結果、鉄栄丸は船底部に破口を伴う凹損を生じ、満潮を待ってサルベージ船の援助を得て離礁し、のち、修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、備讃瀬戸南航路を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、小瀬居島西端の陸岸に向首して進行したことによって発生したものである。 鉄栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し、居眠りに陥ることのないよう指示を徹底しなかったことと、船橋当直者が居眠りしたこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、備讃瀬戸南航路を東行沖、断続的な労働のもと、部下に船橋当直を行わせる場合、居眠り運航とならぬよう、船橋当直を引き継ぐにあたり、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者の居眠り運航につき、格別部下に指示を行うこともあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、小瀬居島西端の陸岸に向首進行し乗揚を招き、鉄栄丸の船底部に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、備讃瀬戸南航路を東行するにあたり、単独で船橋当直中、居眠りに陥ったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |