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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月4日01時55分 伊万里湾青島水道 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十六昭徳丸 総トン数 339トン 全長 61.76メートル 幅
8.90メートル 深さ 4.40メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 第五十六昭徳丸(以下「昭徳丸」という。)は、大中型旋網漁業船団に属する船尾船橋型銅製運搬船で、A受審人、B指定海難関係人ほか6人が乗り組み、平成9年10月30日20時30分佐賀県唐津港を発し、黄海東部の漁場に至り、同船団と合流して操業を行ったのち、さば約81トンを水揚げする目的で、船首2.80メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、翌11月3日07時25分同漁場を発進、伊万里湾内の長崎県調川(つきのかわ)港に向かった。 漁場発進後A受審人は、船橋当直を、自らとB指定海難関係人、一等航海士と甲板員1名の2組として4時間交代で行い、翌4日00時45分ごろ的山(あずち)大島長崎鼻灯台(以下「長崎鼻灯台」という。)から287度(真方位、以下同じ。)5海里ばかりの地点で、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、同灯台を右舷側に見て自動操舵により進行した。 ところで、伊万里湾に入航する際には、日比、青島及び津崎の3水道のうち、いずれかを通航することとなるが、A受審人はいつも青島水道を通航することにしており、同水道が魚固島(おごのしま)と伊豆島間の可航幅500メートルばかりの狭水道で、魚固島には灯台が、伊豆島東方には2個の灯浮標がそれぞれ設置され、通航にそれほどの困難が伴うものではないこと、伊豆島と青島間には、水面上わずかに突き出る大野瀬及び青島と同瀬の間に拡延する暗礁などが存在し、通航困難であることを承知していた。一方、B指定海難関係人は、青島水道を数回、最近では1箇月前に通航した経験があったものの、いずれもA受審人とともに通航したもので、1人で通航したことはなかった。 01時20分半A受審人は、長崎鼻灯台から097度2.0海里の地点に達したとき、B指定海難関係人を手動操舵に当たらせ、針路を青島水道に向く130度に定め、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの速力として続航し、01時24分ごろ前路に数隻の漁船が点在しているのを認めていたうえ、間もなく青島水道に差し掛かるので、同水道を安全に通航できるよう、同人に的確に針路を指示したり、同水道付近の状況を事前に確かめたりしなければならない状況となったが、B指定海難関係人が過去数回自らとともに同水道を通航した経験があるので、同指定海難関係人に操船を委ねておいても大丈夫と思い、在橋して狭水道通航のための操船指揮を執ることなく、夜食をとるとのみ同人に告げて降橋した。 こうしてB指定海難関係人は、1人で手動操舵と見張りに当たりながら進行し、01時25分わずか過ぎ長崎鼻灯台から108度2.9海里の地点に達したとき、右舷船首30度3海里ばかりのところに前路を左方に横切る態勢で底びき網漁に従事中の1隻の小型漁船を認めたので、早めに同船の進路を避けることとしたが、速やかにA受審人に対して昇橋を求めず、針路を同船の船尾方に向く160度に転じたのち、同船の針路を避けながら針路を徐々に戻し、同時38分半魚固島灯台から300度4.0海里の地点で針路を130度に復し、やがてレーダーで正船首方に青島の北端を捉えたものの、これを伊豆島の地端と思い込み、予定の進路から1,500メートルばかり右方に外れたことに気付かないまま続航した。01時46分B指定海難関係人は、魚固島灯台から293度2.5海里の地点に達したとき、伊豆島の東方に向けるつもりで、針路を青島と伊豆島のほぼ中間に向く125度に転じて進行し、同時53分半青島北端と並航したころ、同北端を伊豆島の北端と思い込んだまま、青島北端を付け回すように右転した。 かくして昭徳丸は、船位不確認のまま、B指定海難関係人が伊豆島東方の灯浮標が右舷側に見えないことも魚固島灯台との相対位置も気にかけずに続航中、ようやく様子がおかしいと感じて減速したが、及ばず、01時55分魚固島灯台から261度1,710メートルの、青島と大野瀬の間に拡延する平均水深3メートルばかり暗礁に、ほぼ原速力のまま、198度に向首した状態で乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で潮高は約120センチメートルであった。 A受審人は、夜食をとったのち便所に入っているとき、機関音の変化に気付き、昇橋しようとした矢先に衝撃を感じて乗揚を知り、事後措置に当たった。 乗揚の結果、サルベージ業者の来援で離礁したが、船底外板に亀裂を伴う凹損を、推進器に曲損を、魚群探知用及び魚群探査ソナー用各送受信機に圧壊などをそれぞれ生じ、のちに修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜風、外洋から伊万里湾に入航するため、青島水道に向けて航行中、船位の確認が不十分で、青島と大野瀬の間に拡延する暗礁に向かって進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、青島水道に接近する状況下、船橋当直に当たっていた船長が、降橋して狭水道通航のため操船指揮を執らなかったことと、甲板長が漁船の進路を避ける際、速やかに船長に対して昇橋を求めなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、B指定海難関係人を手動操舵に就けて船橋当直に当たり、外洋から伊万里湾に入航するため、青島水道に向けて航行中、前路に漁船などが点在するうえ、同水道に接近する状況となった場合、同人に的確に針路を指示したり、青島水道付近の状況を事前に確かめたりして安全に同水道を通航できるよう、在橋して狭水道通航のための操船指揮を執るべき注意義務があった。しかし、A受審人は、B指定海難関係人が自らとともに数回青島水道を通航した経験があるので、同人に操船を委ねておいても大丈夫と思い、夜食をとるために降橋して狭水道通航のための操船指揮を執らなかった職務上の過失により、同人が船位を把握できなかったことによる乗揚を招き、船底外板に亀裂などの損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、青島水道に向けて航行中に漁船を避ける際、速やかにA受審人に対して昇橋を求めなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |