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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月16日19時15分 大分県北方平瀬 2 船舶の要目 船種船名
油送船はくせい 総トン数 498トン 全長 64.52メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 はくせいは、船尾船橋型の油タンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、ガソリン500キロリットル、灯油300キロリットル及び軽油300キロリットルを載せ、船首3.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年1月16日18時05分大分県大分港鶴崎泊地の株式会社九州石油大分製油所出荷岸壁を発し、宮崎県油津港に向かった。 A受審人は、出航操船に当たったのち、18時20分関埼灯台から279度(真方位、以同じ。)9.2海里の地に達したとき、船橋当直を一等航海士と交替して降橋した。 一等航海士は、当直を交替したころ大分港の港外に停泊船が多かったことから、関埼とその北方1,300メートルのところに位置する平瀬とに挟まれる水道の中央部に向く097度の予定針路線の北側を東行する090度の針路で進行し、18時51分関埼灯台から292度3.8海里の地点に達したとき、反航船を避けるため、針路を平瀬に設置された豊後平灘灯標(以下「平瀬灯標」という。)に向かう101度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により続航した。 A受審人は、19時05分関埼灯台から307度3,100メートルの地点で、食事交替のために再び昇橋し、一等航海士と交替して単独で船橋当直に当たった。 ところで、はくせいは、船橋前部中央に舵輪があり、その左舷側に第1レーダー、更にその左舷側に第2レーダーがそれぞれ設置され、舵輪と第1レーダーの間に立って見張りを行うと、船橋前面の幅20センチメートルの窓枠によって船首方の見通しが妨げられる状況であった。 A受審人は、舵輪と作動中の第1レーダーの間に立って当直に当たり、関埼と平瀬との間の水道の中央部を航過するつもりで大分県佐賀関港の北方沖合を東行したが、同レーダーを一瞥(べつ)しただけで予定針路線上を進行しているものと思い、灯標等の航路標識又はレーダーを活用するなどして船位を十分に確認することなく、船位が予定針路線の北側にあることも、平瀬に向かって進行していることにも気付かず、同じ針路のまま続航し、その後、左舷側の窓ガラスに反射した関埼灯台の灯火を、平瀬灯標の灯火が見えたものと思い、転針目標である右舷方の関埼灯台の灯火を注視しながら航行した。 19時14分A受審人は、関埼灯台から011度1,300メートルの地点に達したとき、同灯台の灯火を右舷正横に認めて航過したのち、次の予定針路に向けて右転しようとして身体を移動したとき、正船首に平灘灯標の灯火を認めて平瀬に向首していることに気付き、乗揚の危険を感じて右舵一杯とし、機関を全速力後進にかけたが効なく、はくせいは、19時15分平瀬灯標南側至近の暗岩に原針路、原速力のまま乗り揚げ、その左舷船首部が平瀬灯標に衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、はくせいは、船首船底に凹損並びに左舷船首部ブルワーク及びハンドレールに曲損を生じたが自力で離礁し、平瀬灯標は、上部等に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、大分県関埼とその北方に位置する平瀬との間の水道の中央部に向かって同県佐賀関港北方沖合を東行中、船位の確認が不十分で、平瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、大分県関埼とその北方に位置する平瀬との間の水道の中央部を航過するつもりで同県佐賀関港港北方沖合を東行する場合、平瀬に向かって進行することのないよう、灯標等の航路標識又はレーダーを活用するなどして船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、予定針路線上を進行しているものと思い、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、平瀬に向首進行して乗揚を招き、はくせいの船首船底に凹損並びに左舷船首部ブルワーク及びハンドレールに曲損を生じさせ、平瀬灯標の上部等に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |