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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月30日10時10分 徳島県橘浦 2 船舶の要目 船種船名
貨物船千鳥丸 総トン数 199.43トン 全長 44.02メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 661キロワット 3 事実の経過 千鳥丸は、主として九州、阪神間などを航行する船尾船橋型セメント運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、セメント346トンを載せ、船首2.53メートル船尾3.34メートルの喫水をもって、平成9年10月29日14時42分大分県津久見港を発し、徳島県橘港に向かった。 発航後、A受審人は、甲板員と交互に6時間交替で船橋当直に当たり、翌30日05時30分ごろ室戸岬北東方5.5海里付近で、甲板員と交替して単独の当直に就き、四国東岸沿いに北上した。 09時45分A受審人は、蒲生田岬を左舷側に0.5海里ばかり離して通過し、同時53分半舞子島東方の、蒲生田岬灯台から013度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点に達したとき、針路を橘浦の舟磯灯標の少し左に向く314度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、操舵スタンドの右斜め後方に立ち、見張りに当たって進行した。 ところで、A受審人は、自身が操船して橘港に6回ほど入港した経験を有し、舟磯灯標南南東方1.3海里にある裸島周辺に、梶取碆、牛碆及びノベリバエなどの多数の暗礁や干出岩が存在していることを知っており、いつものように同灯標を目標にノベリバエの暗礁を左舷側に約400メート離して北上し、同灯標に0.5海里ほどに近づいたところで左転して高島の北方に向ける予定であった。 定針後間もなくA受審人は、舟磯灯標の南東方に多数の漁船を認めて様子を見ながら続航するうち、10時00分半同灯標から137度2.4海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首方の、裸島の北側に1隻の漁船を視認し、やがて同船がゆっくりと移動しながら前路を右方に横切る態勢で接近することを知ったので、これを避けることにした。 A受審人は、このころノベリバエの暗礁が左舷前方に近づき、針路を左方に大きく転じると同暗礁に著しく接近する状況であったが、ノベリバエの暗礁まではまだ十分に距離があるものと思い、速力を減じ作動中のレーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うことなく、10時06分舟磯灯標から138度2,890メートルの地点において操舵を手動に切り換えて左舵をとり、292度の針路に転じたところ、ノベリバエの暗礁に向首するようになった。 その後、A受審人は、接近した漁船の動静監視に気をとられたまま、ノベリバエの暗礁に著しく接近していることに気付かずに進行し、10時09分半少し過ぎ漁船が右舷側に替わったので舟磯灯標に向けようと右舵をとって回頭中、突然衝撃を感じ、10時10分舟磯灯標から152度1.950メートルの地点において、千鳥丸は、ノベリバエの暗礁に、317度を向首し、ほぼ原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 乗揚の結果、船底外板に破口を伴う凹損を生じたが、来援したサルページ船により引き降ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、徳島県橘港に向けて橘浦を北上中、左舷船首方から接近する漁船を避ける際、船位の確認が不十分で、ノベリバエの暗礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、橘港に向けて橘浦の多数の暗礁や干出岩が存在する海域を北上中・左舷船首方から前路を右方に横切る態勢で接近する漁船を避ける場合、左舷前方のノベリバエの暗礁に著しく接近することのないよう、速力を減じ作動中のレーダーを活用するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同暗礁まではまだ十分に距離があるものと思い、速力を減じ作動中のレーダーを活用するなどして、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、左転し、ノベリバエの暗礁に向首進行して乗揚を招き、船底外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |