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1999年(平成11年)

平成10年門審第112号
    件名
貨物船大潮丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年6月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、供田仁男、西山烝一
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:大潮丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底中央部外板に擦過傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月26日23時20分
静岡県御前埼西方海岸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船大潮丸
総トン数 498トン
登録長 71.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
3 事実の経過
大潮丸は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材等1,031トンを積載し、船首2.83メートル船尾4.04メートルの喫水をもって、平成9年2月26日14時30分名古屋港を発し、千葉港に向かった。
ところで、A受審人は、名古屋港では昼間のみの荷役で自らを含めて乗組員が十分に休養をとっていたところから、いつものように船橋当直を同人、一等航海士及び甲板長による単独の4時間交替制として、出入港時及び狭水道通航時などは自らが昇橋して運航の指揮を執ることとし、伊良湖水道通航時は状況によって昇橋しないで当直者に委ねることとした。
A受審人は、発航とともに操舵、操船に当たり、15時20分ごろ高潮防波堤を替わって間もなく、甲板長に当直を委ねて降橋し、焼酎を2合ほど飲んだ後、夕食をとってテレビを見るなどして過ごすうち、大潮丸は、伊勢湾を南下し、16時ごろ伊勢湾灯標南西2.5海里ばかりの地点で一等航海士が甲板長と当直を交替して伊良湖水道を航過し、18時30分伊良湖岬灯台から166度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点において、御前埼南方沖合3海里ばかりの地点に向けて針路を090度に定め、機関を10.4ノットの全速力前進にかけ、自動操舵として、遠州灘を東行した。
A受審人は当直交替の時間がきたので昇橋し、20時00分伊良湖岬灯台から096.5度16.2海里の地点で、一等航海士から船位、針路などの申し継ぎを受けて引継ぎを終え、単独で当直に就いたとき、右舷船首10度2海里ばかりのところに白、緑2灯を掲げる反航船を認め、これを安全に替わしてその後原針路に戻すつもりで、自動操舵としたまま、針路を080度に転じ、船橋中央部の舵輪の後方に設置したいすに腰掛けたところ、眠気を覚えたが、いずれ同船を航過したらいすから立ち上がって針路を復する操作をすることになるから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって眠気を払拭(ふっしょく)するなり、休息中の乗組員を呼び上げて補佐させるなりして、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに座ったまま進行した。
A受審人は、間もなく居眠りに陥り、やがて反航船が航過したことに気付かず、原針路に復さないまま続航中、大潮丸は、23時20分御前埼灯台から288度10.3海里の砂浜に同一針路及び速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船底中央部外板に擦過傷を生じ、翌27日18時30分ごろ来援したサルベージ業者によって引き降ろされ、タグボートに曳航されて静岡県御前崎港に引き付けられ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、遠州灘を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、御前埼西方海岸の砂浜に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に従事して遠州灘を東行中、反航船を安全に替わすため針路を転じ、いすに腰掛けて、眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって眠気を払拭するなり、休息中の乗組員を呼び上げて補佐させるなりして、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、いずれ同船を航過したらいすから立ち上がって針路を復する操作をすることになるから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、針路を復さないまま、御前埼西方海岸の砂浜に向首進行してこれに乗り揚げ、船底中央部外板に擦過傷を生じさせる
に至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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