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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月14日05時00分 長崎県福江島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船政徳丸 総トン数 4.88トン 登録長 11.17メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 政徳丸は、ひき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、かわはぎのすくい網漁を行う目的で、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成9年4月14日04時30分長崎県戸岐漁港を僚船4隻とともに発し、僚船に先航して田ノ浦瀬戸を経る進路で五島列島福江島柏崎北方沖合4海里ばかりの漁場に向かった。 ところで、A受審人は、田ノ浦瀬戸北口の糸串鼻北西方1.380メートばかりのところには、灯火標識のない海図上高さ2.9メートルの音無瀬と名付けられた干出岩があるのを知っており、同瀬南方の漁場に向かう際の転針地点を設け、同地点を前もってGPSプロッターに入力していたが、小尺度とした同プロッターの画面上では同瀬と同地点とが一つの点となって識別できなくなるところから、糸串鼻を替わった時点で、同プロッターの画面を1.0マイルレンジに拡大して表示させ、同瀬を確認してから針路を定めるようにしていた。 04時55分半A受審人は、糸串埼灯台から048度(真方位、以下同じ。)320メートルの地点に達したとき、音無瀬南方の転針地点に向けて針路を定めることにしたが慣れた航行海域であり、いつもの針路で航行しているものと思い、GPSプロッターの画面を1.0マイルレンジに拡大して音無瀬の存在を確認するとか、作動中のレーダーを活用するとかして船位を確認することなく、同プロッターの画面を4.5マイルレンジとしたまま、同画面に表示された針路線に針路を合わせ、針路がいつもの299度ではなく、305度となったことに気付かず、僚船と行動をともにするため、機関の回転数を全速力前進より少し下げた毎分2,100とし、10.0ノットの対地速力として手動操舵で進行した。 政徳丸は、A受審人がGPSプロッターの小尺度の画面に表示された針路線に乗せるように操舵しながら続航中、05時00分糸串埼灯台から318度1,380メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その頂部を海面上に出した音無瀬に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日出時刻は05時57分であった。 乗揚の結果、船首部外板に破口を伴う損傷を生じたが、乗揚時の衝撃の反動で後退して離礁し、のち修理された。また、A受審人は、約1箇月の通院治療する顔面挫創などの負傷を被った。
(原因) 本件乗揚は、夜間、長崎県福江島北方沖合において、漁場に向けて西行中、船位の確認が不十分で、灯火標識のない干出岩に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、長崎県福江島北方海域において、灯火標識が設置されていない音無瀬南方の転針地点に向けて西行する場合、小尺度のGPSプロッターの画面では前もって入力した転針地点と同瀬とが分離されず、一つの点として表示される状況にあったから、同瀬に著しく接近することのないよう、同画面を拡大して同瀬の存在を確認するとか、作動中のレーダーを活用するとかして船位を確認すべき注意義務があた。しかるに、同人は、慣れた航行海域であり、いつもの経路で航行しているものと思い、同プロッターの画面を4.5マイルレンジとしたまま、同プロッターに表示された針路線に針路を合わせただけで、船位を確認しなかった職務上の過失により、同瀬に向首していることに気付かないまま進行して同瀬に乗り揚げ、船首部外板に破口などを生じさせ、自らが顔面挫創などの負傷を被るに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |