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1999年(平成11年)

平成11年長審第6号
    件名
貨物船高嶺丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年7月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:高嶺丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底外板ほぼ全面にわたり破口、のち廃船

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月14日20時40分
佐賀県東松浦郡平瀬
2 船舶の要目
船種船名 貨物船高嶺丸
総トン数 199トン
全長 56.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
3 事実の経過
高嶺丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長B及びA受審人のほか1人が乗り組んで製薬会社の製品輸送に従事していたところ、平成9年11月11日18時20分製品約600トンを積載して博多港に入港し、翌日の荷役に備えて待機し、翌12日着岸後08時00分から揚荷役を始めて積荷の約半分を揚げ、11時25分残りの積荷を揚げるため、博多港を出港して長崎港に向かい、22時00分同港に着いて錨泊した。
同月13日08時10分高嶺丸は着岸して再び揚荷役を始め、午前中に荷役を終えたのち、次の荷物の積地が決まるのを待つため、そのまま待機していたところ、翌14日になって積地が決まったとの連絡を受け、船首0.60メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、13時20分長崎港を発し、関門港小倉区に向かった。
ところで、B船長は、船橋当直を単独6時間2直制とし、自らが00時から06時までと12時から18時まで、乗船経歴が30年以上ある経験豊富なA受審人が06時から12時までと18時から24時までの当直に就くことにしていたので、発航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、18時ごろ長崎県平戸大橋の南方3.5海里ばかりの地点において、昇橋してきたA受審人に対し、航行時の潮流の状況を判断して平戸瀬戸での通航路を選ぶように指示して同人に当直を任せ、降橋して自室で休息をとった。
船橋当直を引き継いだA受審人は、舵輪の後方で椅子に腰を掛けて当直にあたり、18時20分ごろ平戸瀬戸を無難に通過したのち、機関を全速力前進にかけて自動操舵とし、10.5ノットの対地速力で航行を続け、博多港や長崎港において十分な休養をとっていたものの、19時30分ごろ黒島瀬戸の北東方沖合に達したころから眠気を催すようになり、コーヒーを飲んだり、操舵室から出て外気にあたったりしていた。
20時18分少し過ぎA受審人は、呼子平瀬灯台から259度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点に達したとき、いったん操舵室に入り、針路を同灯台付近に向く078度に定め、折からの風潮流で右方に1度ばかり圧流されながら進行し、その後、再び眠気を覚ますために操舵室を出て船橋当直中、前路に漁船群を認めて同室に戻り、椅子に腰を掛けて手動で舵を取り、漁船群を替わし終えたのち、操舵を自動に切り替えただけで続航した。
A受審人は、いまだ眠気がとれないまま当直にあたっていたが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、操舵室から出て外気にあたるなり、椅子から立ち上がって手動で操舵するなどの居眠り運航の防止措置をとることなく進行するうち、いつしか居眠りに陥り、20時31分半ごろ肥前立石埼灯台から348度1,150メートルばかりの転針予定地点に達したことに気付かず、転針できないまま続航した。
20時40分少し前A受審人は、ふと目覚めて前路至近に呼子平瀬灯台の灯火を認め、急いで操舵を手動に切り替えて右舵一杯としたが、及ばず、20時40分船首が090度ばかりを向いたとき、呼子平瀬灯台から270度120メートルの浅礁に原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の北北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。
B船長は、自室で就寝中、乗揚の衝撃で目覚め、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
乗揚の結果、船底外板ほぼ全面にわたり、長さ130センチメートル(以下「センチ」という。)幅3センチの破口のほか7箇所に破口を、長さ1,200センチ幅970センチ深さ35センチの凹傷のほか4箇所に凹傷を生じ、バラストタンクや機関室に浸水したのみならず、主機や推進器にも損傷を受け、同月15日サルベージ船によって引き降ろされたが、のち修理費の都合で廃船とされた。

(原因)
本件乗揚は、夜間、佐賀県呼子港沖合を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、平瀬西岸の浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、佐賀県呼子港沖合において、眠気を覚ますために操舵室を出て船橋当直中、前路に漁船群を認め、操舵室に戻って椅子に腰を掛け、手動操舵で漁船群を替わし終えたのち、いまだ眠気がとれなかった場合、居眠りに陥らないよう、操舵室から出て外気にあたるなり、椅子から立ち上がって手動で操舵にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、自動操舵で椅子に腰を掛けたまま当直を続けて居眠りに陥り、転針予定地点で転針できないまま進行して平瀬西岸の浅礁への乗揚を招き、船底外板に破口を伴う凹傷などを生じさせ、廃船とするに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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