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1999年(平成11年)

平成10年広審第14号
    件名
引船第五有生丸引船列乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、釜谷奬一、織戸孝治
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第五有生丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
有生丸の船底に凹損

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月22日17時30分
香川県津田港沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第五有生丸 艀明友101
総トン数 93.58トン 約390トン
全長 24.5メートル 48.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
3 事実の経過
第五有生丸(以下「有生丸」という。)は、専ら瀬戸内海において土運台船の曳航に従事する鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉で船首尾の喫水が0.4メートルの非自航艀明友101(以下「艀」という。)を船尾から延出した約50メートルの曳航索で引き、船首2.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成9年8月22日14時10分香川県香西港を発し、同県津田港に向かった。
A受審人は、自ら当直について四国側の陸岸に沿って東行し、17時05分馬ヶ鼻灯台から081度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点に達したとき、針路を145度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの1.0ノットの南東流に乗じ、5.0ノットの対地速力で手動操舵として進行した。
A受審人は、この付近を頻繁に通航していたので、津田港沖合の鷹島北東方500メートルのところに沖ノソワイと称する洗岩があることを知っており、これに接近しないよう、定めた針路のまま同島を右舷側1,000メートルばかり離して航過し、その後右転して津田港に向ける予定で続航したところ、17時25分馬ヶ鼻灯台から129度20海里の地点に達したとき、予定転針点の少し手前となる正船首500メートルばかりに刺し網を投入中の漁船を認め、これを避けることとした。
A受審人は、そのころ前示洗岩が右舷船首55度600メートルに接近していたことから、針路を左方に転じて漁船をかわしたかったが、左舷船首方に点在する遊漁船を認めて左転を躊躇(ためら)い、右転しても洗岩の位置を確認しながら進行すれば大丈夫と思い、大きく沖合に向けて左転し、遊漁船や漁船をかわしてから津田港へ向けるなど、安全な針路を選定することなく、右転して201度の針路とし、機関を微速力前進に減じて徐々に減速しながら進行したところ、洗岩に向首するようになったが漁船が投じた刺し網の位置や艀の振れ具合に気を取られ、このことに気付かないまま続航中、17時30分有生丸は、馬ヶ鼻灯台から137度2.1海里の地点において、201度を向首したまま、3.0ノットの速力で洗岩の南端に乗り揚げ、これを擦過した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期で、乗揚地点付近には微弱な南東流があった。
乗揚の結果、有生丸の船底に凹損を生じたが、のち、修理された。

(原因)
本件乗揚は、香川県北東岸沖合を航行中、船首方の漁船を避ける際、針路の選定が不適切で、洗岩に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、香川県北東岸沖合を東行中、船首方に操業中の漁船を認め、これを避けようとする場合、右方には洗岩があることを知っていたから、大きく左転するなど、洗岩から離れる安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに同人は、左方に遊漁船が点在していたので左転を躊躇い、右転しても洗岩の位置を確認しながら航行すれば大丈夫と思い、洗岩から離れる安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、同岩に向首進行して乗揚を招き、有生丸の船底外板を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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