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1999年(平成11年)

平成10年那審第49号
    件名
漁船第七昭徳丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年3月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

小金沢重充、東晴二、井上卓
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:第七昭徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底に2箇所の凹損及び船底外板に擦過傷

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月3日11時25分
沖縄県久米島兼城港沖合の中干瀬
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七昭徳丸
総トン数 338トン
全長 62.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第七昭徳丸(以下「昭徳丸」という。)は、従業区域を丙区域とする船首尾楼付一層甲板の船尾船橋型鋼製漁船であり、東シナ海中部で操業しているまき網漁業船団の漁獲物を運搬する目的で、A受審人ほか7人が乗り組み、氷270トンを載せ、船首3.2メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成10年3月31日07時05分長崎県三重式見港を発し、同船団の操業に合流して、魚群の探索をしていたところ、船団長の指示により腹痛を訴えた網船の乗組員を移乗させ病院へ輸送することとなり、越えて同年4月3日04時30分漁場を発進し、沖縄県久米島兼城港へかった。
発進後A受審人は、自ら当直に就いて自動操舵により進行し、08時00分、二等航海士と甲板員の2人に当直を任せて降橋した。
ところで、兼城港沖合には、浅礁が多数散在していたことから、安全に入航できるよう浅礁端を示す立標が設けられ、更に兼城港指向灯が兼城港灯台に併設され、同指向灯の白光が055度(真方位、以下同じ。)を中心に幅約3度で可航水路を、幅約4度の緑光が左舷側を、幅約4度の赤光が右舷側をそれぞれ示し、その模様が海図第238号に記載されており、また、同港西側に鳥島漁港が隣接していて、同漁港へ至る水路には、同じように浅礁端を示す立標及び灯標が設けられていたものの、水深が浅く、地元小型漁船が専ら航行するものであった。
なお、A受審人は、半年ほど前に兼城港へ1回入航したことがあり、このとき網船に追尾しながら航行し、航過目標を特に気にしないで入港したものの、浅礁端を示す立標があったことのみを記憶していたものであった。
10時50分A受審人は、久米島灯台から274度3.2海里の地点に達したとき、入航操船に当たることとして昇橋したが、立標を見ながら進行すればよいと思い、備え付けの海図第238号を見るなど水路調査を十分に行うことなく、単独で当直を引き継いだ。
A受審人は、手動操舵に切り換えて自ら操舵に当たり、10時56分久米島灯台から253度3.0海里の地点で、針路を兼城港沖合の西干瀬(いりびし)を1海里ばかり離す126度に定め、機関を前進にかけ、11.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、11時16分兼城港指向灯から241度1.8海里の地点に達したとき、一等航海士及び二等航海士を船首の見張りに配置し、同指向灯の可航水路から外れていることに気付かないまま、針路を同指向灯に向く061度に転じ、10.4ノットの速力に減じて続航した。
11時20分A受審人は、兼城港指向灯まで1.1海里となったとき、左舷方によく見える立標及び灯標のある水路が鳥島漁港に向かう水路であることに気付かないまま、針路を同水路へ向かう007度とし、速力を更に減じて7.0ノットで進行し、同時24分半ごろ船首見張員からの水深が浅い旨の合図により、直ちに翼魚を0度としたが、間に合わず、11時25分鳥島港灯標から003度300メートルの地点において、昭徳丸は、原針路のまま浅礁に乗り揚げた。
当時、天侯は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船首船底に2箇所の凹損及び船底外板に擦過傷を生じた。

(原因)
本件乗揚は、沖縄県久米島兼城港へ入航するにあたり、水路調査が不十分で、同港西側の鳥島漁港へ向かう水路に進入し、浅礁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖合に浅礁が散在する兼城港へ向け航行中、入航操船を行うこととして昇橋した場合、浅礁の間を通ることになるのであるから、入航水路を間違えないよう、海図を見るなど水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、立標を見ながら進行すればよいと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、兼城港指向灯の存在も分からず、水深の浅い鳥島漁港へ向かう水路に進入し、浅礁に著しく接近して乗揚を招き、船首船底に凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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