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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月6日19時15分 伊万里湾青島水道 2 船舶の要目 船種船名
貨物船大栄丸 総トン数 425トン 登録長 55.39メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,029キロワット 3 事実の経過 大栄丸は、航行区域を沿海区域とする船尾船橋型鋼製砂利採取運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成9年3月6日18時30分伊万里湾内の長崎県調川(つきのかわ)港を発し、同県五島列島若松島滝河原の砕石場に向かった。 A受審人は、雨の中、出航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、津崎水道を通航する予定で、出航して間もなくコンパスによって針路を323度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけたものの、コンパスの自差により、真針路が338度となり、青島水道に向首する態勢となったことに気付かないまま、操舵室中央に備えた舵輪の後方に立って手動操舵に当たったところ、雨が強まり、視界が次第に制限され、周囲の物標を肉眼では確認できない状況となったので、機関の回転数を下げて5.3ノットの平均速力として進行した。 ところで、A受審人は、それまでに調川港に10回ほど入航した経験があったことから、伊万里湾に接続する水路の状況や同湾内の活魚養殖施設の設置状況等を十分に承知していた。 その後、A受審人は、活魚養殖施設の位置等を確認するために0.75海里レンジとしたレーダーを見ながら続航し、18時55分ごろ魚固島(おごのしま)灯台から173度1.9海里ばかりの地点に達したとき、そのまま進行すれば津埼水道でなく青島水道に向首接近する状況となったが、レーダー画面上に現われた海面反射や雨等の反射の影響でレーダーの映りが悪かったことから、これらの反射を消すことに気をとられ、津崎水道付近の物標を捉えることができるよう、レーダーのレンジを適宜切り替えてレーダーを活用するなどの船位の確認を十分に行うことなく、この状況に気付かないまま続航した。 19時11分半A受審人は、魚固島灯台から212度1,170メートルの地点に達したとき、右舷前方に魚固島南岸付近に設置された活魚養殖施設のレーダー映像を認めるとともに船首方1,100メートルのところに大野瀬浮標の赤灯を視認したものの、依然として船位の確認を十分に行っていなかったので、同映像を青島南岸付近に設置された活魚養殖施設、同赤灯を同施設の存在を示す標識の灯火とそれぞれ思い込み、これらを目標として津崎水道に向かうつもりで針路を左に転じ、機関の回転数を上げて11.0ノットの全速力前進とし、転じた針路が310度となって大野瀬南側の浅礁に向首する状況となったことに気付かずに進行した。 こうして大栄丸は、船位の確認が十分に行われないまま続航中、19時15分魚固島灯台から260度1,520メートルの地点において、原針路、原速力のまま大野瀬南側の浅礁に乗り揚げた。 当時、天候は雨で風力4の南南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視程は約500メートルであった。 乗揚の結果、船底外板に破口及び亀(き)裂を伴う凹損を生じたが、引船によって引き降ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、雨のため視界が制限された状況下、伊万里湾内を津崎水道に向けて航行する際、船位の確認が不十分で、同水道北東方の大野瀬南側の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、雨のため視界が制限された状況下、単独の船橋当直に就き、伊万里湾内を津崎水道に向けて航行する場合、肉眼では同水道付近を認めることができなかったから、レーダーで同水道付近の物標を捉えることができるよう、レーダーのレンジを適宜切り替えてレーダーを活用するなどの船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダー画面上に現われた海面反射や雨の反射等を消すことに気をとられ、レーダーのレンジを適宜切り替えてレーダーを活用するなどの船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、大野瀬南側の浅礁に向首進行して乗揚を招き、船底外板に破口及び亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |