日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年長審第30号
    件名
油送船美和丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:美和丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底部に破口を伴う凹傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月22日02時52分
長崎県西彼杵郡三ツ瀬南方沖合の小島
2 船舶の要目
船種船名 油送船美和丸
総トン数 499トン
全長 65.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
美和丸は、船尾船橋型の鋼製油タンカーで、A受審人及びB指定海難関係人のほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成10年1月21日15時10分鹿児島港を発し、長崎港に向かった。
A受審人は、出港操船を終えたのち、ちょうど一等航海士の当直時間帯であったので、同人に単独4時間の船橋当直を引き継ぎ、いったん降橋して自室で休息し、19時30分再び昇橋して自ら船橋当直にあたり、22時30分ごろ甑中瀬灯標から090度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を335度に定め、機関を全速力前進にかけて自動操舵とし、折からの風潮流で海図に記入した予定の針路線より、わずかに左方に圧流されながら、11.5ノットの対地速力で進行した。
23時30分ごろA受審人は、甑中瀬灯標から339度12海里ばかりの熊本県阿久根港沖合に達したころ、昇橋してきたB指定海難関係人に船橋当直を行わせることにしたが、同人は船舶の位置、針路及び速力の測定や船舶の操縦などを行うことができる甲種甲板部航海当直部員であるうえ、当該海域での単独船橋当直の経験が豊富で、水路状況についても分かっていたので、同人に船橋当直を任せておいても大丈夫と思い、自船に著しく接近する態勢の他船を認めたときには、その旨を直ちに報告するよう指示しないまま、平素のとおり船位と周囲の状況を引き継いだのち、伊王島付近に達したら入港準備のため起こすこと、行き会う漁船の動向には特に注意し、操船に不安を感じたらいつでも報告することなどを指示して同人に同当直を任せ、降橋して自室で休息した。
船橋当直を引き継いだB指定海難関係人は、予定の針路線より船位がやや左方に偏位していたところから、当て舵をとって針路を336度に転じて続航し、翌22日02時38分大立神灯台から270度2.6海里の地点に達したとき、三ツ瀬の西方を航行する予定であったところ、右舷前方に自船の前路至近を左方に航過する態勢で接近する漁船の灯火を、同船の後方に同様な態勢で来航する漁船の灯火をそれぞれ認めたが、自ら右転することで2隻の漁船を避航しようと思い、その旨を速やかにA受審人に報告しないまま、同時38分半三ツ瀬灯台から197度3.0海里の地点で、1隻目の漁船の船尾を替わすため針路を000度に転じ、同漁船を前路至近に替わしたのち、同時41分同灯台から200度2.6海里の地点で、2隻目の漁船も同様に避航するため、更に右舵をとって針路を024度に転じ、同灯台を左舷船首方に見ながら進行した。
02時46分B指定海難関係人は、三ツ瀬灯台から197度1.55海里の地点に達したとき、2隻目の漁船が1隻目の漁船と同様に前路を左方に航過するのを確認したので、左転して原針路に戻そうと思ったところ、右舷前方近距離に先の2隻と同様な態勢で接近する3隻目の漁船を認めて左転するのを止め、同船を替わしてから三ツ瀬と端島の問を航行しようと思って続航するうち、同船が針路を右に曲げたように見えたので、前路を無難に替わるかどうか同船の動向が気になり、同船に視線を向けていて船位の確認ができなくなり、同灯台の南方800メートルばかりに存在する小島に向首接近していることに気付かないまま進行した。
02時51分B指定海難関係人は、3隻目の漁船が前路至近を左方に航過するのを認めるのとほぼ同時に、前路350メートルばかりのところに島影を初めて認め、気が動転して操舵輪を握ったまま立ちすくんでいたところ、たまたま甲板上でバラストの調整作業を行おうとしていた一等機関士が、小島に著しく接近していることに気付き急いで昇橋し、機関の操作レバーを引いて全速力後進としたが、及ばず、原針路、ほぼ原速力のまま、02時52分三ツ瀬灯台から181度830メートルの小島に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。
A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
乗揚の結果、船首船底部に破口を伴う凹傷を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県野母埼沖合を北上中、船位の確認が不十分で、三ツ瀬南方沖合の小島に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し自船に著しく接近する態勢の他船を視認したときは、直ちにその旨を報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が自船の前路至近を左方に航過する態勢の漁船が接近してきた旨を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人が船橋当直者に対し、自船に著しく接近する態勢の他船を視認したときは、直ちにその旨を報告するよう指示しなかったことは本件発生の原因となる。しかしながら、以上のA受審人の所為は、船橋当直者が船舶の位置、針路及び速力の測定や船舶を操縦することなどが認められた甲種甲板部航海当直部員の認定を受けており、同人に対して行き会う漁船の動向には特に注意し、操船に不安を感じたときにはいつでも報告することなどを指示していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
B指定海難関係人は、夜間、単独の船橋当直にあたって自船の前路に著しく接近する態勢の漁船群を視認した際、その旨を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION