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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月3日15時30分 長崎県西彼杵郡七ツ釜港 2 船舶の要目 船種船名
瀬渡船五幸丸 総トン数 3.3トン 登録長 9.90メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 147キロワット 3 事実の経過 五幸丸は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.20メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成10年4月3日14時30分長崎県七ツ釜港の係留地を発し、同日早朝に瀬渡しした釣り客を収容する目的で、大島北西方沖合の片島と同島北方沖合の蟹瀬に向かった。 ところで、A受審人は、同日05時から06時にかけて端ノ島に2人、片島に2人及び蟹瀬に4人の釣り客をそれぞれ瀬渡ししたあと朝食をとり、その後、09時ごろから正午ごろまで町内会の会合に出席したのち、端ノ島に瀬渡しした釣り客を収容するため12時15分ごろ係留地を発航し、同客を収容したあと同時45分ごろ係留地に戻り、13時ごろから14時15分ごろまで再び町内会の慰労会に出席し、食事をとるとともにビール大瓶1本を飲んだあと釣り客を収容するために片島と蟹瀬に向かった。 A受審人は、14時55分ごろ片島で、15時12分ごろ蟹瀬でそれぞれ釣り客を収容し、観音瀬戸及び寺島水道を経て帰港することにし、操舵室の椅子に腰をかけ、手動操舵で帰途に就いた。 A受審人は、大島北岸沖合を東行中、慰労会で飲んだビールの影響もあってか眠気を催してきたが、ほどなく観音瀬戸の西口に達したので、椅子から立ち上がって操舵室の天窓から顔を出し、外気に当たって眠気を覚ましながら、14時19分ごろ同瀬戸を無難に通過した。その後、A受審人は、再び椅子に腰をかけて寺島水道を南下し、呼子ノ鼻と寺島間の架橋工事区域の通過時にも再度天窓から顔を出して操船にあたり、同区域を通過したのち、15時27分少し前兜島灯台から053度(真方位、以下同じ。)1,630メートルの地点に達したとき、針路を名串埼に向首する160度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で、椅子に腰をかけて進行した。 15時28分半A受審人は、兜島灯台から089度1,650メートルの地点に達したとき、針路を135度に転じ、その後、七ツ釜港の陸岸に向首する態勢で続航していたところ、ビールを飲んでいたうえ、食後の満腹感と江川の鼻の南方沖で行われている港湾工事区域を無事通過した安堵感があって眠気を催すようになったがまさか居眠りすることはあるまいと思い、天窓から顔を出して外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく進行中、間もなく居眠りに陥って係留地に向けての転針ができず、15時30分兜島灯台から104度2,320メートルの地点において、原針路、原速力のまま、岩礁に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。 乗揚の結果、船首部外板に破口を伴う損傷などを生じ、越えて同月6日満潮時に僚船の援助を得て引き降ろされ、のち修理された。また、釣り客のBが全治2箇月の左頸腓(けいひ)骨の骨折を、同Cが全治2週間の腰部打撲をそれぞれ負った。
(原因) 本件乗揚は、長崎県寺島水道を経て同県七ツ釜港の係留地に向けて帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港の陸岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、長崎県寺島水道を経て同県七ツ釜港の係留地に向け、椅子に腰をかけて操船中、港湾工事区域を航過して安堵したことなどで眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、操舵室の天窓から顔を出して外気に当たりながら操船するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、椅子に腰をかけたまま居眠りし、七ツ釜港の陸岸に向首進行して岩礁に乗り揚げ、船首部船底外板に破口を伴う亀裂などを生じさせ、釣り客2人を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |