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1999年(平成11年)

平成10年長審第67号
    件名
旅客船第十五まごめ丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年8月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、原清澄
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第十五まごめ丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
右舷船首部の舵板脱落、推進器翼及び推進軸曲損、舵頭材周囲船底外板亀裂などを生じて浸水

    原因
運航管理規程の遵守不十分

    主文
本件乗揚は、運航管理規程の遵守が不十分で、暴風雨の中を目的地に向けて航行したことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月4日22時28分
長崎県寺島水道赤瀬
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第十五まごめ丸
総トン数 456.78トン
全長 48.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
3 事実の経過
第十五まごめ丸(以下「まごめ丸」という。)は、船首部と船尾部に推進器と舵板を2組ずつ備えた両頭型鋼製旅客船兼自動車航送船で、航行区域を平水区域とし、姉妹船1隻とともに、寺島水道を挟んだ長崎県肥前大島港と同県太田和港との間を片道約15分かけて1日に31往復していたところ、平成8年12月4日14時30分A受審人ほか2人が前任者と交代して乗り組み、22時20分肥前大島港発の最終便として旅客5人を乗せ、船首尾とも2.50メートルの喫水をもって、同港を発航することになった。
ところで、R有限会社(以下「R社」という。)は、運航管理規程に基づく運航基準により、発航前に、風速が海秒18メートル以上となっているときや、視程が500メートル以下に狭められているときは、発航を中止することとし、航行中に、風速が毎秒20メートル以上となるおそれがあるときは、目的地への航行を中止して反転もしくは避泊の措置をとり、視程が400メートル以下に狭められたときは、当直体制を強化してレーダーの有効利用を図ったり、状況に応じて基準経路外で錨泊したりするなどの措置をとるよう定めていた。
また、発航当日は、移動性高気圧の中心が九州を通過し、西方から前線を伴った低気圧が発達しながら九州北部に接近しており、長崎海洋気象台が同日05時20分付近海域に強風、波浪注意報を出し、21時10分同注意報に加えて大雨、雷注意報などを出していた。
A受審人は、発航に当たり、テレビジョンの天気予報で強風波浪注意報などが発令されているのを知っていたが、風は毎秒12メートルほどの南南東風で、視界は雨のためやや狭められた程度であり、いずれも運航基準で定められた発航条件を満たしていたので、22時20分定刻どおり肥前大島港を発し、太田和港に向かった。
発航後、A受審人は、船橋前部右舷側に立って1人で遠隔操舵に当たり、22時22分半寺島71メートル頂三角点(以下「寺島三角点」という。)から315度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点に達したとき、針路を馬込港マタカセ西灯浮標(以下「西灯浮標」という。)に向く049度に定め、機関を全速力前進にかけて8.4ノットの平均速力で進行した。
A受審人は、定針後間もなく乗船券の整理などを終えて昇橋した機関員に探照灯を操作させて前方を照らし、R社が狭い水路の目標として設置した、マタカ瀬の干出岩上にある反射テープを巻いた棒や、同棒の南方で、寺島三角点から008度960メートルばかりと013度960メートルばかりとにある同テープを巻いた竹竿などを肉眼で確かめながら続航した。
22時25分ごろA受審人は、西灯浮標の手前150メートルばかりの地点に差しかかったころ、低気圧の影響で南東の風雨が強まり、風速が毎秒15メートルに達し、視程が約500メートルと悪くなったのを認め、更に風雨が強まって視界が悪化すると予測したが、目的地まで近いうえ、いつも通航しているところであるから、何とか目的地まで航行できるものと思い、速やかに発航地に引き返したり、基準経路外で錨泊したりするなどの運航管理規程に基づく運航基準を遵守することなく、そのまま進行した。
22時25分少し過ぎA受審人は、寺島三角点から001度1,010メートルの地点で、針路を098度に転じ、スタンバイ状態の3基のレーダーのうち、船橋前部右舷側のレーダーを作動させたところ、故障していて画面に映像が現れなかったが、右舷前方130メートルばかりと220メートルばかりとに前示竹竿が見えていたこともあって、他のレーダーで周囲の状況を確かめないまま、風雨が強まる中をこれらの竹竿を針路目標として続航した。
22時26分わずか過ぎA受審人は、寺島三角点から013度1,010メートルの地点に達し、狭い水路東口付近の竹竿を右舷側約50メートルに航過したころ、南東の風雨が急激に強まって視界が著しく悪化し、周囲の物標が何も見えなくなったので、機関員を船橋前部左舷側で見張りに就かせ、機関の回転数を下げて6.0ノットの速力として進行した。
その後、まごめ丸は、A受審人が舵を中央としたまま同一速力で続航するうち、船尾部両舷側には非常時船外脱出口用の内壁があって、船首部と比べて船尾部の方が横風の影響を受けやすい構造となっていたので、船尾が強風で圧流されて船首が風上に切り上がり、徐々に右方に偏しながら赤瀬北東側の浅礁に向首接近する状況となって進行中、22時28分寺島三角点から033度840メートルの地点において、船首が144度を向いたとき、ほほ原速力のまま、赤瀬北東側の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力9の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視程は約50メートルであった。
乗揚の結果、右舷船首部の舵板脱落、推進器翼及び推進軸曲損、舵頭材周囲船底外板亀(き)裂などを生じて浸水したが、自力離礁して太田和港に入航し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、浅礁が多数散在する長崎県寺島北岸沖合を航行中、強風のうえ、雨で視界が著しく狭められる状況となった際、運航管理規程の遵守が不十分で、暴風雨の中を目的地に向けて航行を続け、赤瀬北東側の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、浅礁が多数散在する長崎県寺島北岸沖合を航行中、低気圧の影響で風雨が強まり、視界が狭められたのを認めた場合、更に気象状況が悪化すると予測されたのであるから、速やかに発航地に引き返したり、基準経路外で錨泊したりするなどの運航管理規程に基づく運航基準を遵守すべき注意義務があった。しかるに、同人は、目的地まで近いうえ、いつも通航しているところであるから、何とか目的地まで航行できるものと思い、運航管理規程に基づく運航基準を遵守しなかった職務上の過失により、暴風雨の中を目的地に向けて航行を続け、赤瀬北東側の浅礁に向首進行して乗揚を招き、右舷船首部の舵板脱落、推進器翼及び推進軸曲損、舵頭材周囲船底外板亀裂などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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