|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年2月6日14時45分 境港 2 船舶の要目 船種船名 漁船鶴松丸 総トン数
65.24トン 登録長 26.06メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
551キロワット 3 事実の経過 鶴松丸は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船でA受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、船首1.4メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成9年2月1日12時00分兵庫県城崎群香住町の香住漁港を発し、島根県沖の日本海の漁場へ向かい、翌2日04時00分ごろ同漁場に着いて操業を繰り返し行った後、漁獲物(鰈(かれい)及び鰰(はたはた)約5,250キログラム)の水揚げのため、同月6日11時00分ごろ島根県簸川郡大社町の日御崎北北東25海里ばかり漁港を発信し、境港へ向かった。 ところで鶴松丸の操業形態は、投網からえい網及び揚網の一連の作業を約1時間半かけて行い、その後漁獲物の選別格納作業をB指定海難関係人及び機関長を除くA受審人と甲板員7人とが甲板上の作業員となって行うもので、一昼夜で平均10回から12回の漁労作業を繰り返す状況で、十分な休息はとれない状態にあった。他方、B指定海難関係人は、漁場到着後、長時間の漁場移動の場合を除いて、1人操舵操船を行い、えい網作業中であっても漁網が瀬に引っ掛からないよう気を配らねばならず、15分ないし20分間機関長に当直を頼み仮眠をとることはあっても、ほとんど1人で船橋当直を行っており、同月2日からの操業中にあっては、短時間の漁場移動を度々行ったので、同移動中に休息をとることもできず、細切れに休んだ時間を足しても1日2時間ぐらいしか休息をとることができず、睡眠不足の状態が続いていた。 A受審人は、海技免状を受有していたことから同船に船長として乗り組んでいたものの、同人の父親である鶴松丸の所有者が同船の運航・操業を経験豊富なB指定海難関係人に任せていたことから、同指定海難関係人の指導の下で他の乗組員と一緒に甲板作業を行ったり、漁場への往復航時の船橋当直に当たっており、従って、特に航行中船橋当直者が眠気を感じたときの指示・指導を行っていなかった。 漁港発進時、B指定海難関係人は、他の乗組員は漁獲物の選別格納作業があり、また、境港までの航程が短かったので1人で船橋当直に当たって、操舵室内の椅子に腰を掛けて進行し、14時32分美保関港東防波堤灯台から206度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点に達し、針路を270度に定めて、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 定針したときB指定海難関係人は、操業による睡眠不足のため眠気を催していたが、少しの間我慢すればよいと思い、居眠り運航とならないよう、他の乗組員を起こして2人で当直に当たる等の居眠り運航の防止措置をとることなく、そのまま椅子に腰を掛け、前路を見張っているうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして鶴松丸は、船橋当直者が居眠りを続け、居眠り運航となって境水道の陸岸に向首したまま続航中、14時45分境港防波堤灯台から286度870メートルの境水道北側の陸岸に原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 A受審人は、自室で睡眠中、他の乗組員から乗り揚げたことを知らされ、事後の措置に当たった。 乗揚の結果、船底外板に凹損、推進器翼に曲損などを生じたが来援したサルベージ船により引き降ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、美保湾を境港港内に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、境水道北側の陸岸に向首進行したことによって発生したものである。 鶴松丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して同当直中眠気を催した際の指示・指導を行わなかったことと、同当直者が眠気を催した際、他の乗組員を呼び起こして2人で同当直に当たる等の居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人が、単独の船橋当直者に対し、眠気を催した際の居眠り運航の防止措置についての指示・指導を行わなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、以上のA受審人の所為は、当時の同人の就労環境に徴し、職務上の過失とするまでもない。 B指定海難関係人が、睡眠不足の状態で、単独の船橋当直に当たって航行中、眠気を催した際、他の乗組員を呼び起こして2人で同当直に当たる等の居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |